真空管交換の楽しさ
同じ規格の真空管でもブランドや製造時期によって構成すなわち電気的特性が微妙に異なるため、ご使用中の真空管を別ブランドに交換するだけでサウンドを自在に変化させることができるのも真空管の特長の一つでもあります。
従って、その組み合わせは非常に多く、たった一台のアンプで多種多様なサウンドを作り出すことができるため、オーナー様の好みのサウンドを試行錯誤の末に探し出すことが究極の醍醐味でもあります。
真空管の交換時の注意点
脅かす訳ではありませんが、真空管交換には、感電の危険性ととなり合わせであることを肝に銘じてください。 アンプの各部には、数百ボルトの電圧が印加されており、電圧露出部分に直接さわると感電します。「ビリッときた」程度の笑い話ではすまなく、時には、死に至るケースもありますので、十分に注意してください。
- アンプの電源スイッチをオフにし、さらに電源プラグをコンセントから抜いた状態で交換作業をすること(感電防止)。電源プラグをコンセントから抜いた状態であっても、アンプ内のコンデンサに電荷がチャージされているため、各部に高電圧が印加されており、依然として、感電の危険性があります。
- 交換作業中は、必ず片手(絶縁ゴム手袋装着)で作業し、両手で作業をしないこと(感電防止)。両手で作業した場合、感電すると、アンプ→右手→右腕→心臓→左腕→左手→アンプという閉回路が形成されることにより心臓に電流が流れ、最悪感電死に至ります。
- 真空管が十分に冷めてから交換すること(火傷防止)。熱膨張の関係より、冷めてからのほうが真空管をソケットから外しやく、作業が楽。
実際の交換手順
- アンプの電源スイッチをオフにする。
- 電源プラグをコンセントから抜く。
- 真空管が熱い場合、十分に冷えるまで待機。
- アンプの裏蓋のネジ等をドライバーで外して、旧真空管(プリ管(親指くらいのサイズ)やパワー管(プリ管よりも大きいサイズが一般的)の実装位置を確認する。ソケットの位置と真空管の規格(12AX7等)を対応づけて、紙に記入しておく。真空管がシールド筒に入っている場合には、シールド筒を外しておく。
- 1本の旧真空管を抜く。真空管は、円周上に配設された複数のピンが、アンプ本体に固定されたソケットに挿入された状態で実装されています。 真空管の根本部分を持時した状態で軸方向(垂直方向)に抜くようにして外します。外しにくい場合には、わずかに揺らしながら少しづつ抜いてください。 ここで、パワー管の場合には、根本部分のハカマとガラス部に分かれていますが、必ずハカマ部分を把持してください。ガラス部分を把持すると、ハカマとガラス部との接着が外れルーズとなります。 また、抜ききったときに、力が余って、真空管の頭をアンプ内部にぶつけて破損させる場合がありますので、力加減に十分配慮してください。 旧真空管を抜く順番はどれでも構いませんが、理想的には、信号の流れに沿って、プリ管、パワー管の順番で抜くのが良いと思います。 また、旧真空管には、実装位置がわかるように、外した順番で連番(1、2、3、4等)を付与し、マジック等で真空管に記入しておくことをお奨めいたします。何らかのトラブルが発生した際に、元の状態に速やかに戻すためです。
- 抜いた1本の真空管の規格(12AX7等)を確認し、この規格と同一規格の新真空管を用意する。つぎに、旧真空管を抜くのとは逆の要領で、当該新真空管を空ソケット((5)で旧真空管が抜かれたソケット)に実装します。なお、真空管とソケットとは、ピン配置が工夫がされているため、円周方向の位置を間違うことなく、実装できるようになっています。ソケットには、完全に挿入してください。挿入状態が甘いと、真空管が脱落しますので注意してください。
- 残りの旧真空管について、(5)と(6)とを繰り返す。ここで、(5)と(6)とを1本づつ作業する理由は、複数規格(12AX7、12AT7等)のプリ管が混在した状態で実装されている場合に、規格を間違わないためです。
- 真空管の交換が終了したら、(4)で紙に記入したものと、新真空管の実装位置・規格とを照合し、間違いが無いことを、指差呼称しながら確認してください。目視確認はヒューマンエラーの原因となるので、声を出しながら何度も確認してください。
- 間違いが無いことを確認したら、電源プラグをコンセントに挿入した後、電源をオンにし、音だしテストを実行してください。
- 問題無ければ、電源をオフにし、電源プラグをコンセントから外した後、裏蓋を元通りにして、交換作業は、無事終了です。
真空管交換の免責事項
真空管交換は、万全の注意の上、お客様の自己責任にて行っていただけますようお願い申し上げます。なお、弊社は、真空管交換作業に伴う事故、火災、傷害の一切の事項に関して責任を負いかねますので予めご了承ください。
真空管の互換性とは?
ヴィンテージサウンドへのお問い合わせの中で特に多いのは、真空管の互換性の確認です。
ここで、真空管の互換性とは、2種類の真空管における相互差し替えの可否をいいます。
具体的には、今ここに、真空管Aが実装されたアンプがあり、かつ真空管Bもあるとします。
真空管Aを真空管Bに差し替えした場合に、アンプが正常に動作するか否かが問題となります。
正常に動作する場合、「真空管Aと真空管Bとは互換性がある」といいます。
これに対して、正常に動作しない場合、「真空管Aと真空管Bとは互換性がない」といいます。
余談になりますが、厳密に定義すると、互換性には、「完全互換性」と「準互換性」という2つがあります。
前者の「完全互換性」は、アンプ回路に変更を加えることなく、真空管の交換だけで当該アンプが正常動作することを指します。なお、本HPでにおける互換性とは、この完全互換性を意味します。
後者の「準互換性」は、アンプ回路に何らかの変更(ピン配置変更、ヒータ電圧変更、ヒーター回路変更等)を加えることが前提条件とされた互換を指します。従って、「準互換性」の場合には、単に真空管を交換しただけでは、アンプは動作しません。
タマ転がしの醍醐味
真空管を様々なブランドに交換してサウンドの変化を楽しむ行為を、英語では、「チューブ・ローリング」と呼ばれており、日本語では、「タマ転がし」といったところでしょうか。
米国では、真空管に関する豊富な情報を背景に、チューブ・ローリングが文化として根付いております。従って、米国では、積極的な真空管交換を前提に真空管アンプを選ぶオーナーが多いのも事実です。
他方、日本では、入手時に実装されていた真空管をそのまま使い続け、故障してからはじめて真空管を交換するという消極的交換派の方が多く、モノを大切にするという国民性の表れでしょうか。とてもおもしろい傾向だと思います。
さて、本題のタマ転がしの醍醐味とは何でしょうか?
ズバリ、1台の真空管アンプさえあれば、七変化のサウンドを自在に作り出すことができることです。
半導体アンプでは、こうはいきません。半導体アンプは、固有の1サウンドしかでませんから、別のサウンドにしたければ、もう一台半導体アンプを購入しなくてはなりません。よっぽどのお金持ちならいざしらず、ほとんどの方は、一台の半導体アンプを何年にも亘って大切に使いづけるのが一般的です。
これに対して、真空管アンプの場合には、真空管を別ブランドや互換球に交換するだけで、全く別のサウンドを作り出すことができます。
「真空管を交換したら別のアンプになってしまった」ということは普通に起こります。
高価なケーブルに交換するよりもはるかに経済的でその効果は、絶大です。
もっとも、真空管の価格もピンキリですが、真空管アンプ本体を買い換えることを考えると、気軽に交換できます。
交換後にたとえ気に入らないサウンドであったとしても、真空管を元に戻せば、お気に入りのサウンドに元通りです。その気軽さは、「チューブ・ローリング」という言葉にぴったり合います。
タマ転がしと一口にいっても、変化させるパラメータや組み合わせが複数あるため、サウンドバリエーションがとにかく豊富で飽きることがなく、非常に奥が深い世界です。
変化させるパラメータとしては、「ブランド」、「互換球」、「プリ管のゲイン」、「パワー管のパワー」等が挙げられ、さらに、プリ管とパワー管との組み合わせも考慮しなければならないため、その多種多様性は容易に想像がつきます。
それでは、タマ転がしの基本である「互換性」の具体例をご紹介しましょう。 互換性を説明すると1冊の本になってしまいますので、代表的なものを列挙いたしました。
プリ管の互換性
§12AT7ファミリー
- 12AT7(米国系の呼称)
- 12AT7WC(超ローノイズ)
- ECC81 (欧州系の呼称)
- ECC801(高信頼)
- ECC801S(高信頼)
- M8162(超レア)
- CV4024 etc.
§12AU7ファミリー
- 12AU7 (米国系の呼称)
- ECC82(欧州系の呼称)
- E82CC
- ECC802(高信頼)
- ECC802S(高信頼)
- M8136(超レア)
- CV4003 etc.
§12AX7ファミリー
- 12AX7(米国系の呼称)
- 12AX7A
- 12AX7WA
- 12AX7WB
- 12AX7WC
- 12AX7LP(ロングプレート)
- 12AX7LPS(ロングプレートかつスパイラルヒータ)
- 5751(歪みすぎる場合のゲインダウンに最適)
- 7025
- 7025A
- CV4004
- ECC83(欧州系の呼称)
- ECC83S
- E83CC
- ECC803(高信頼)
- ECC803S(高信頼)
- M8137(超レア)
§12AY7ファミリー
- 12AY7 6072 etc.
§6AQ8ファミリー
- 6AQ8(米国系の呼称)
- ECC85(欧州系の呼称) etc.
§6CG7/6FG7ファミリー
- 6CG7 6FQ7
§6DJ8ファミリー
- 6DJ8 E88CC 6922 etc.
§6SL7ファミリー
- 6SL7GT
- 5691(レッド管 高信頼) etc.
§6SN7ファミリー
- 6SN7GT
- 5692(レッド管 高信頼) etc.
§12BH7ファミリー
- 12BH7(米国系の呼称)
- ECC99(欧州系の呼称) etc.
パワー管の互換性
§2A3ファミリー
- 2A3 現行品では互換性無し
§300Bファミリー
- 300B 現行品では互換性無し
§6BM8ファミリー
- 6BM8(米国系の呼称)
- ECL82(欧州系の呼称)
§6L6ファミリー
- 6L6G(太管でズ太いサウンド)
- 6L6GC
- 6L6WGC
- 6L6WXT+
- 5881
- 5881WXT
- KT66(玄人好みのサウンド)
§6V6
- 6V6GT 現行品では互換性無し
§7027ファミリー
- 7027
- KT66
§7591
- 7591 現行品では互換性無し
§EL34ファミリー
- EL34
- 6CA7
- KT77(EL34に飽きたら)
§EL84ファミリー
- EL84
- EL84M(耐震補強型 ギターアンプに最適)
- 6BQ5
- SV83
§KT88ファミリー
- KT88
- 6550
- 6550A
- 6550C
整流管の互換性
§5AR4ファミリー
- 5AR4(米国系の呼称)
- GZ34(欧州系の呼称)
§5U4Gファミリー
- 5U4G(初期型の太管)
- 5U4GB
§5Y3ファミリー
- 5Y3GT 現行品では互換性無し
§6CA4ファミリー
- 6CA4(米国系の呼称)
- EZ81(欧州系の呼称)
互換時の注意点
- サイズの確認 互換球同士は、電気的にな互換性があっても、物理的なサイズには互換性はありません。従って、真空管の実装スペースに余裕が無い場合には、互換球が大きすぎて実装できない場合もありますので、事前のサイズ確認をお奨めいたします。 よくあるケースが、真空管アンプ本体のボンネットに真空管の頭が当たってしまうことや、ギターアンプのケースに当たってしまうことです。 つぎによくあるケースが、互換球の真空管の直径が太くなったため、隣接する真空管同士が干渉してしまうことです。真空管ソケットの間隔を確認することが大切です。
- 真空管アンプと互換球との相性 ほとんどの場合には、問題なく互換球が正常に動作しますが、稀に、真空管アンプとの相性が悪く、使えない場合があります。パソコン本体とメモリとの関係に似ています。使えない場合には、きっぱり諦めるか、別ブランドの互換球にトライしましょう。別ブランドだと使えるケースもあります。恐るべし奥深き真空管です。