間違いだらけの真空管選び

目次

プロローグ

ヴィンテージサウンドには、電話、メール、FAXまたは手紙により、1日に50件ほどの真空管関連のお問い合わせをいただいており、代表者の佐々木が直接応対しております。

お問い合わせ内容は、初級レベルから超上級レベルまで様々で、お客様のプロファイルも、ギター入門者、ギターリスト、プロミュージシャン、オーディオ入門者、オーディオ上級者等で毎日楽しく仕事をさせてもらっております。

  が、お客様とお話する回数が増えるほど、ある一つの思いが確信に変わってきました。

  「真空管のことを知らないお客様のほうが圧倒的に多く、ものすごく損をしている」

ここでいう、「損」とは、経済的な損失よりも、むしろ、真空管使用の最終目的である「サウンド面」の損失のほうが遙かに大きいと思います。

同じお金をかけるなら、できるだけ良いサウンドで聴きたい(奏でたい)という思いは人情というものです。

しかしながら、真空管知識が不足していると、楽器店、販売店の言うなりになってしまい、結局、高い買い物をしたわりには、しょぼいサウンドだった等、身に覚えがある方もいらっしゃることでしょう。

真空管選び、ひいてはサウンド作りには、一にも二にも理論武装が必要です。

そのために、ヴィンテージサウンドでは、真空管の情報を正確かつ公平にお届けしてゆきます。

本サイトのコンテンツを全てお読みいただければ、真空管に関しては一定レベル以上のスキルになっていることでしょう。

それでは、奥深き、真空管の世界へご案内いたします。

ヴィンテージサウンド
第1級陸上無線技術士 
代表 佐々木 英明

謎多きフシギ真空管業界

「真空管業界」と聞いて、何をイメージしますか?

秋葉原、マニア、古臭い、前近代的、・・・・・・ 色々あるでしょう。

かくゆう私が「真空管業界」なるものにはじめて接したのは、電子工学科の学生だった頃(若い!)に足を踏み入れたラジオデパート(東京 秋葉原)の真空管販売店でした。

その当時、電気系学生の流れで、アマチュア無線にフルコースで嵌まった後、「そろそろプロの無線技術士の資格でもとってみっか」という軽い気持ちではじめた勉強が運のツキ、その中で何度も登場する「真空管」に完全にやられてしまった訳で、その後、株式会社リクルート、特許業界を経て今に至っています。

よせばいいのに、「つぎは真空管アンプでも作ってみっか」と意気込んで行ったのがラジオデパートでした。店名は忘れましたが、つぎのシーンだけは鮮明に記憶に残っています。

・やや薄暗い店舗のガラスショーケースに並べられ、エラソーに鎮座する真空管 ・とても話かけられない雰囲気のオヤジ ・スイッチがたくさんついている機械

勇気を振り絞って

「真空管っていくらするんですか?」(そもそも、こういう抽象的な聞き方がまずかった) 「ピンキリだよ!(やや怒)」 「・・・・・・・・・・(コワっ!)」

あえなく撃沈。 当然、何も買わずに退店。 ほろ苦い真空管デビューでした。

その足で、ラジオデパート内の電波堂書店にて「真空管アンプと喜多さんの音響道中膝栗毛」(伊藤喜多男著 誠文堂新光社)を購入した後、帰路につきました。

あの日の販売店での出来事が、現在のビジネスの原体験になっています。

時は2009年となりましたが、真空管業界の体質は、基本的には当時のままだと思います。真空管業界といっても、業界団体があるわけでもなく、横のつながりもなく、実際には、各販売店が独自に仕入れて、さまざまなポリシーで好き勝手に販売しているというだけなのです。

また、真空管業界は、真空管をブラックボックス化して販売することを良しとする、謎が多い業界でもあります。ユーザに対する情報開示が圧倒的に不足しており、それが真空管を謎のベールに包み、数々の都市伝説を産んできた温床となっているのだと思います。

自戒の念を込めて、情報開示不足は、販売サイドの怠慢で真空管ユーザの毒になっても薬にはなりません。

一方、海外に目を向けてみると、永いときを経て、真空管が一つの文化にまで昇華され、真空管に関する豊富な情報がユーザに提供される環境が整っており、ユーザは、確かな目を持って、真空管をチョイスできるのです。

残念ながら、日本にはそのような環境は無く、真空管の後進国と言わざるを得ません。

かといって、私は、真空管業界をどうこうしたいという気持ちはさらさらありません。

ただ、真空管業界に携わる一人として、ユーザにとって有益な真空管情報を惜しみなく、公平に提供することで、次世代へ真空管というものを伝えてゆきたいと思っております。

文系のための真空管入門 part1 プリ管

【3本のうちどれがプリ管でしょうか?】

真空管と一口でいっても、機能面で分類すると数十種類にも及びます。テレビのブラウン管も真空管の一種です。

そのうち、 ギター真空管アンプおよびオーディオ真空管アンプでは、三種の神器として「プリ管」、「パワー管」および「整流管」が使われます。

これら三種類だけを知っていれば、アンプについて十分に語ることができます。

実際のプリ管は、上の画像の10(左側)で、電圧増幅管とも呼ばれています。一般的には、パワー管および整流管に比して、プリ管のサイズが小さいので容易に判別することができます。 画像のプリ管10は、12AX7という代表的な規格で、ブランドがTUNG-SOL(タングソル)です。サイズは、親指ほどです。

ここで、プリ管の役目は、エレキギターやCDプレイヤでピックアップされた音楽信号の電圧を増幅することです。 音楽信号は、非常に微弱なレベルの信号であるため、スピーカを鳴らすだけのエネルギは全くありません。そこで活躍するのが、プリ管という訳です。

音楽信号における増幅の原理は、川の流れに例えるとわかりやすくなります。川は、源流→上流→下流→海という経路で流れ、下流にいくほど水量が増えます。音楽信号の増幅も上流から下流にいくに従って、レベル、パワーが段階的に増加してゆきます。 各要素の対応関係はつぎのようになります。 しっかりとイメージしてください。このイメージができればあとはカンタンです。

川の流れ→音楽信号の流れ 水量→音楽信号のレベル(大きさ) 源流→エレキギターやCDプレーヤ 上流→プリ管 下流→パワー管 海→スピーカ つぎに、音楽信号の増幅動作について説明します。 エレキギターやCDプレイヤ(源流)で微弱な音楽信号がピックアップされると、この音楽信号は、プリ管(上流)で所定のレベルにまで増幅される。

【ちょっとレベルアップ】
電気理論では、音楽信号は電圧と電流で表現されますが、プリ管は、音楽信号の電圧だけを増幅して、電流は増幅しないと大まかに考えてください。 スピーカを鳴らすためのパワー(電力)は、音楽信号の「電圧」と「電流」のかけ算で表されます。 プリ管では、電圧が高いのですが、電流が低すぎるため、パワーが足りないのです。スピーカを鳴らすためには、電流も増幅しなければなりませんが、プリ管には、その能力がありません。 プリ管は、静電気に似ています。静電気は、数キロボルトという超高電圧なのですが、電流がほとんど流れません。ですから、静電気でパチっとしても、電流が流れないため、感電死することはありません。実は、静電気は、圧倒的にパワー不足なのです。

話を戻し、プリ管で増幅された音楽信号は、パワー管(下流)で増幅される。パワー管では、電圧に加えて電流も増幅されるため、パワー管から出力される音楽信号は、十分なパワーを有している。

そして、この音楽信号がスピーカ(海)のボイスコイルに流れ、スピーカでは、音楽信号が空気振動に変換されることにより、音楽が再生される。

【ちょっとレベルアップ】
パワー管は、音楽信号の電圧および電流を増幅します。音楽信号のエネルギを表す電力Pは、電流をI、電圧をVとするとつぎの式で表されます。 P=V・I 電圧Vが大きくても、電流Iが小さいと、パワーが低いため、スピーカーを駆動するのに必要な電力が不足します。そこで登場するのが、パワー管です。パワー管は、プリ管に比して、電流が多く流れますので、熱に強い堅牢な構造とされており、サイズも大きくなります。

ところで、なぜ、プリ管と呼ばれているのでしょうか。ヒントは、「プリ」(Pre-)です。プリは、「〜の前」という意味で用いられますが、この場合には、プリアンプ(Preamplifier)のことを指します。 プリアンプは、電気回路的にメインアンプ(パワーアンプともいう)の前に置かれるアンプで前置増幅器とも呼ばれています。この流れで、「プリアンプに使われる真空管」ということで、プリ管と呼称されています。

CDプレイヤをパワーアンプに直接つないでも、スピーカーからは、まともに音が出ません。パワーアンプに入力される音楽信号のレベルが低すぎるからです。 そこで、CDプレイヤとパワーアンプとの間にプリアンプを介挿すると、プリアンプで音楽信号が、パワーアンプで必要なレベルにまで増幅されるため、パワーアンプで電力増幅されスピーカーから大音量が出力されるのです。 高速道路において、パーキングから本線をつなぐ助走道路がプリアンプに該当します。パーキングから出ていきなり0→100km/hに加速するのが無理なことと同じです。

プリ管12AX7 TUNG SOLの構成

プリ管の動作を大まかに把握したら、次は、構成です。

ここでは趣を変えて、その昔、私が仕事として毎日書いていた特許明細書風に説明してみましょう。特許業界では「構造モノ」の説明の仕方です。 実際の特許明細書では、もっと多くの符号を使って微に入り細に入り説明しなければなりませんが、今回は、上記画像において主な構成要素のみに符号を付けて、簡潔に説明します。

上記画像のプリ管10(Twin Triode)において、ピン11(Base Pin)は、9本の棒状導体であって、円周上に所定角度をもって等角配置されるように底部に垂設されている。これらのピン11は、プリ管10内部の各電極と電気的に接続されており、使用時に真空管ソケット(図示略)に挿通される。 第1プレート12a(First Plate)および第2プレート12b(Second Plate)は、プリ管10の内部であって、中心軸に沿って平行配設された電極であり、ピン11のうち所定の2本のピンと電気的に接続されている。

第1絶縁支持板13(First Insulating Spacer)および第2絶縁支持板14(Second Insulating Speacer)は、絶縁性を有するマイカからなる略円板状部材であり、各周縁部がプリ管10の内周面に接するように配設されている。これらの第1絶縁支持板12および第2絶縁支持板14は、プリ管10の軸方向に対して直角をなし、かつ第1プレート12aおよび第2プレート12を挟持するように対向配設されている。

ゲッター部材15(Getter Material)は、バリウム等の金属が円環状に形成されてなり、支持部材を介して第2絶縁支持板14の上方に平行をなすように設けられている。ゲッター16(Getter)は、ゲッター部材15への高周波加熱により頂部17の内周面に形成された金属皮膜であり、プリ管10内部で発生するガスを吸収する役目をしている。

プリ管10の構成の説明は以上ですが、文章のあちらこちらに表現のテクニックがちりばめられているのがお分かりでしょうか。一見すると簡単なようですが、特許業界では、文章だけから逆に図面(画像)を描けるような正確さをもって表現することが求められ、このような文章を書けるようになるまで少なくとも3年はかかります。

いつか機会を設けて、特許業界についても書いてみようと思います。 ここで、ぜひ覚えていただきたいプリ管10の特徴があります。上記の説明で何か気づいたことがありますか。

もうおわかりですね。 プリ管10は、第1プレート12aと第2プレート12bという2つのプレートを有した構成とされております。プレートは、真空管の心臓部にあたる部分で、心臓部というくらいですから、本来、1つの真空管に1つのプレートが標準装備のはずです。 ところが、プリ管10には、2つものプレートがあります。2本の真空管を1本にしたような二個一で、画像の第1プレート12aと第2プレート12bとは、まるでお母さんのおなかの中の双子のようにも見えます。

このような双子構造のプリ管は、「双極管」(正確には双三極管:Twin Triode)と呼ばれております。 なお、双子といっても、第1プレート12aと第2プレート12bとは、電気的に独立して動作します。

つぎにプリ管にとって最も重要な要素について説明いたします。これを知らないと、サウンドデザイン上の致命傷となります。 プリ管を電気的に測定すると、ゲイン(増幅度)、相互コンダクタンス等の様々な電気的特性を数値で知ることができ、この数値に基づいて、プリ管の良否を定量的に判定することができます。 ここでは、プリ管の電気的特性として最も重要なゲインに絞って説明します。

プリ管のゲインは、プレート毎に測定されます。 言い換えると、 プレート1つにつき、1つのゲインが測定されます。

従って、上述した画像のプリ管10を測定すると、第1プレート12aのゲイン(以下、第1ゲインと称する)と、第2プレート12bのゲイン(以下、第2ゲインと称する)という2つのゲインが得られます。 ここで注意すべきは、第1ゲインと第2ゲインは、同値ではなく、差がある場合がほとんどであるという点です。差の程度もプリ管毎にバラツキがあります。

バラツキの具体例は、後のテーマで詳述いたしますが、実測するとそのバラツキに驚きます。 例えば、プリ管の代表格12AX7のゲインは、「100」と信じられているようですが、これは、理想ゲインであって、現実には、80〜115くらいの幅にばらついて分布しているのが普通です。

どの世界でも、理想と現実は大きくかけ離れているもので、真空管の世界も例外ではありません。

上述した画像のプリ管10の例に当てはめると、第1プレート12aの第1ゲインが90、第2プレート12bの第2ゲインが110という差が20なんてことも普通にあります。

第1プレート12aと第2プレート12bとは、一卵性双生児のように見た目は同じですが、性格(ゲイン)が違うのです。

もちろん、両ゲインの差が0や、1か2というものもありますが、このように差が少ないものは、「双極マッチ」または「双極マッチド」と呼ばれ、全体に占める割合は非常に少なくプリ管の中のサラブレッドと言うことができます。

一卵性双生児の例ですと、見た目も性格(ゲイン)も同じというケースに該当します。

  • 【ここでのポイント1】 プリ管は外見が同じでも、電気的特性(ゲイン)の個体差が大きい。
  • 【ここでのポイント2】 プリ管からは、2つのゲインが測定できる。 2つのゲインにバラツキがあるのがほとんどである。
  • 【ここでのポイント3】 プリ管は、まるで一卵性双生児のようで、二種類のタイプが存在する。 1つ目は、一卵性双生児で外見一緒だが、性格(ゲイン)が別のタイプ。 2つ目は、一卵性双生児で外見も性格(ゲイン)も一緒のタイプ。

なぜ、バラツキがでるのかというと、理由は明快で、第1プレート12aと第2プレート12bとの機械的構造を寸分の狂いもなく製造することが難しいからです。手作り品のため、見た目が同じでも、第1プレート12aと第2プレート12bとは、寸法が微妙に違うのです。

第1プレート12aと第2プレート12bとの機械的誤差が、電気的特性(ゲイン)の誤差として表れるのです。 実に判りやすい! プリ管におけるゲインのバラツキは、サウンドデザインに大きな悪影響を与えます。詳細については、日を改めてご説明しますが、ちょっとだけ、ヒント。

あなたの真空管アンプに2本のプリ管(12AX7)が実装されており、左右スピーカに対応しているとします。2本のうち、左スピーカに対応する12AX7のゲインが低く、右スピーカに対応する12AX7のゲインが高かったらどのように聞こえますか。もうおわかりでしょう。 残念ながらゲインは、見た目では絶対にわかりません。専用の測定器で測定するしか知る術はありません。

現行品 プリ管

画像左から 12AT7EH 12AU7 EH 12AX7 EH 6SL7GT TUNG-SOL 6SN7GT TUNG-SOL

つぎに、現行品の中から5種類のプリ管をご紹介しましょう。 これらの5種類のプリ管は、すべて双極管構造(いわゆる一卵性双生児)となっており、1本につき2つのゲインが測定されます。 左から1本目〜3本目は、見た目も同じですが、12AX7,12AU7,12AX7という具合に規格(理想ゲイン)が異なりますので、互換性はありません。 左から4本目および5本目は、他よりもサイズが大きいのですが、これらもプリ管です。

米国系ヴィンテージ管 プリ管12AX7

画像の左から 12AX7A RCA 12AX7 GE 12AX7 Kinsman(GE製) 12AX7 SYLVANIA

1920〜1980年代にかけて製造された真空管は、ヴィンテージ管と称され、特に、真空管全盛期(1940〜1960年代)のヴィンテージ管は、サウンドの良さと希少性から人気、価格が共に高く、年々高騰しています。 真空管全体からにじみ出る風格、雰囲気は、現行品にはない魅力的なもので、人々を引きつけてやみません。

当時一流の職人魂が時を経て、見る者に訴えかけてくるようです。 ヴィンテージ管のピンと、現行品のピンとを見比べてください。ヴィンテージ管のピンが、チタンマフラーのように七色になっているのがわかりますか。 上記画像の4本は、米国系ブランドのヴィンテージ管です

欧州系ヴィンテージ管 プリ管12AX7

画像の左から ECC83/12AX7 Telefunken(テレフンケン 独国) ECC83/12AX7 Mullard(ムラード 英国) M8136 Mullard(ムラード 英国) ECC83/12AX7 Amperex(アンペレックス 和蘭国) 通称 Burgle Boy(笛吹童子)

上記画像の4本は、欧州系ブランドのヴィンテージ管です。米国系ブランドとは、作りが異なるため、サウンドも別傾向となります。

米国系ヴィンテージ管 プリ管6SN7GT,6SL7GT

画像の左から 6SN7GT RCA 初期ブラックプレート 6SL7GT GE グレープレート 上記画像の2本は、米国系ブランドのヴィンテージ管です。

文系のための真空管入門 part2 パワー管編

【3本のうちどれがパワー管でしょうか?】

もうおわかりでしょう。 パワー管は、上の画像の20(中央)で、電力増幅管とも呼ばれています。一般的には、プリ管や整流管よりもサイズが大きく、真空管アンプで最も目立つ位置(いわゆるセンター)に実装されていますのでカンタンに見つけることができます。 画像のパワー管20は、パワー管の中でもEL34と人気を二分するKT88という規格で、ブランドがGOLD LION(ゴールドライオン)です。

サイズは、握り拳ほどです。 復習になりますが、パワー管の役目は、前述したように、プリ管で増幅された音楽信号の電圧および電流を増幅し、スピーカーを駆動することでしたね。

パワー管KT88 GOLD LIONの構成

つぎは、パワー管の構成です。 パワー管もプリ管も基本的な構成はほとんど同じですが、決定的に違う点があります。 それは、プレートの数です。 プリ管は、1本あたりプレートが2つでしたが、一般的には、パワー管は、プレートが1つです。

パワー管についても、特許明細書風に構成を説明してみましょう。

上記画像のパワー管20(Power Tube)において、ピン21(Base Pin)は、7本の棒状導体であって、円周上に所定角度をもって等角配置されるようにハカマ22(Base)の底部に垂設されている。これらのピン21は、パワー管20内部の各電極と電気的に接続されており、使用時に真空管ソケット(図示略)に挿通される。

プレート23(Plate)は、パワー管20の内部であって、中心軸に沿って配設された電極であり、ピン21のうち所定の1本のピンと電気的に接続されている。 第1絶縁支持板24(First Insulating Spacer)および第2絶縁支持板25(Second Insulating Speacer)は、絶縁性を有するマイカからなる略円板状部材であり、各周縁部がパワー管20の内周面に接するように配設されている。

これらの第1絶縁支持板24および第2絶縁支持板25は、パワー管20の軸方向に対して直角をなし、かつプレート23を挟持するように対向配設されている。 ゲッター26(Getter)は、ゲッター部材(図示略)への高周波加熱によりパワー管20の頂部の内周面に形成された金属皮膜であり、パワー管20内部で発生するガスを吸収する役目をしている。

上記ゲッター部材(図示略)は、バリウム等の金属が円環状に形成されてなり、支持部材を介して第2絶縁支持板25の上方に平行をなすように設けられている。

ここで、パワー管を電気的に測定すると、プレート電流、相互コンダクタンス等の様々な電気的特性を数値で知ることができ、この数値に基づいて、前述したプリ管と同様に、パワー管の良否を定量的に判定することができます。 プリ管では、ゲインが重要であるのに対して、パワー管では、プレート電流が重要となります。

また、パワー管の場合には、プレートが1つしかありませんので、パワー管1本につきプレート電流は1つしか得られません。従って、2つのゲインを測定しなければならないプリ管よりも、パワー管のほうが、測定に手間も時間もかかりません。

ここで気になるのが、パワー管におけるプレート電流の個体差です。 もちろん、プリ管のゲインと同様に、パワー管にも個体差が存在します。理由は、機械的構造の精度が、同一規格であってもパワー管毎に違うからです。 例えば、上記画像のパワー管20が100本あるとしましょう。もちろん、これらの100本は、外見が同じですので、見た目で区別がつきません。

これら100本に対して、同一の測定条件で各プレート電流を測定すると、100個のプレート電流の各数値が得られます。パワー管1本につき、1つのプレート電流でしたね。 100個のプレート電流を検証すると、ゲインと同様にバラツキが必ず出ます。 例えば、つぎのような測定結果が得られます。

  • 1本目  プレート電流→20.5mA(電流の単位でミリアンペアと読む)
  • 2本目  プレート電流→36.5mA
  • 3本目  プレート電流→40.4mA
  • ・ ・ ・
  • 98本目 プレート電流→25.5mA
  • 99本目 プレート電流→19.9mA
  • 100本目 プレート電流→28.2mA

上記測定結果において、1本目と3本目は、外見は同じであっても、プレート電流に関して、実に2倍もの差があります。このような測定結果は、別に珍しいことではなく、普通に起こる現象です。プレート電流の大小によっても、サウンドが変化しますので、これを無視してサウンドデザインを語ることはできません。

いわゆるマッチドペアというのは、100本の中から、電気的特性(上記ではプレート電流)の誤差が小さいもの2本を選別したものを指します。 ここで注意すべきは、ペアといっても、どのような条件で測定し、どのような条件で選別したかにより、ペアの精度は千差万別となります。

この選別精度が甘いと、誤差が大きい「なんちゃってペア」となり、堂々と販売されているケースも見受けられます。なお、真空管の測定や精度、選別方法については、別テーマを設けて詳述したいと思います。

パワー管におけるプレート電流のバラツキを説明するには、自動車に例えるとわかりやすくなります。 すなわち、 外見が全く同じで区別が付かないクラウンが100台あるとします。但し、エンジンの馬力は、バラバラとします。例えば、1台目は200馬力、2台目は360馬力、3台目は400馬力、・・・・、98台目は250馬力、99台目は190馬力、100台目は280馬力とします。

なお、100台の各重量は同一であるものします。 パワー管と自動車の対応関係はつぎの通りです。

パワー管   →自動車 プレート    →エンジン馬力 測定条件   →アクセル量 プレート電流 →走行速度 そして、100台のクラウンに1台づつ順次試乗し、同一のアクセル量(測定条件)で走行させた場合、エンジン馬力(プレート)の相違により、走行速度(プレート電流)にバラツキが発生します。 以上がパワー管においてプレート電流がバラツく場合の考え方です。

このプレート電流も、プリ管のゲインと同様に、見た目では絶対にわかりません。専用の測定器で測定するしか知る術はありません。

現行品 パワー管

画像左から 300B JJ 2A3 JJ KT88 JJ 6550C Svetlana Sロゴ 6L6GC Svetlana Sロゴ KT77 GOLD LION 6V6GT TUNG-SOL EL84 GOLDLION

つぎに、現行品の中から8種類のパワー管をご紹介しましょう。

左から1本目および2本目は、直熱管と呼ばれるパワー管で、サイズも大きく、存在感があります。

左から3本目〜8本目は、傍熱管と呼ばれるパワー管です。 パワー管と一口にいっても、サイズがまちまちです。

ちなみに、左から8本目のパワー管は、管高さ以外、前述したプリ管12AX7とほぼ同径で、馴れないと間違うので注意してください。

画像左から KT88 TUNG-SOL 3穴プレート KT88 RCA 無穴プレート 145 Arcturus ペア 青ナス刻印 

パワー管にもヴィンテージ管があります。

右の青ナス(ペア)は、ただただ 美しいの一言です。 上記画像の4本は、米国系ブランドのヴィンテージ管です。

文系のための真空管入門 part3 整流管編

【3本のうちどれが整流管でしょうか?】

整流管は、上の画像の30(右側)です。この整流管30は、プリ管10と同様に一卵性双生児の構造とされており、1台のアンプに1本が標準的な実装です。 整流管30は、プリ管10と似た構造をしていますが、機能が全く違います。

まさに、別モノです。 整流管30には、グリッドと呼ばれる電極が無いため、プリ管やパワー管のように音楽信号を増幅する機能がありません。整流管30は、交流電源から直流電源を作るための整流作用を有しています。

正確には、整流管30の整流作用は、全波整流作用です。

全波というくらいですから、「半波」という声が聞こえましたが、その通り、あります。その話をすると混乱するので、全波整流ということで続けます。

整流管30は、携帯電話機のACアダプターの役目をしていると考えてもらうとわかりやすいと思います。 プリ管10やパワー管20が音楽信号を扱う音楽屋だとすれば、整流管30は、電源屋です。 ここで、整流管の使用には歴史的な背景があります。

真空管には、直流電源(電池等の電源)が不可欠で、1920年代の真空管ラジオの電源は、大きくて重い電池でした。ところが、真空管の消費電力が大きいため電池を頻繁に交換しなければならず、コストも手間もかかるため、一部の金持ちにしか普及しませんでした。 そこで、注目されたのが、当時、各家庭に普及しつつあった交流電源(今のコンセントAC電源です)です。

この交流電源を真空管アンプに直接使うことはできませんが、整流管を使えば、交流電源から直流電源を作ることができます。これで、重くて高価な電池とは永久におさらばできます。 そして、真空管ラジオに整流管を搭載したモデルが次々と開発され、交流電源さえあれば、一般家庭でもラジオ放送を楽しめるということで、爆発的に普及しました。このように、整流管は、ラジオ放送の普及に重要な役目を果たしたのでした。

なお、真空管アンプによっては、整流管30に代えて、シリコンダイオード等の半導体整流器(ソリッドタイプともいう)が使われている場合がありますので、整流管が見つからなくてもご心配に及びません。

整流管 5U4GB EHの構成

最後は、整流管30の構成です。 整流管もプリ管も基本的な構成はほとんど同じですが、決定的に違う点があります。 それは、整流管には、増幅作用はなく、整流作用がある点です。

ものはついでですから、整流管についても、特許明細書風に構成を説明してみましょう。

上記画像の整流管30(Rectifier Tube)において、ピン31(Base Pin)は、5本の棒状導体であって、円周上に所定角度をもって等角配置されるようにハカマ32(Base)の底部に垂設されている。これらのピン31は、整流管30内部の各電極と電気的に接続されており、使用時に真空管ソケット(図示略)に挿通される。

第1プレート33a(First Plate)および第2プレート33b(Second Plate)は、整流管30の内部であって、中心軸に沿って平行配設された電極であり、ピン31のうち所定の2本のピンと電気的に接続されている。 第1絶縁支持板34(First Insulating Spacer)および第2絶縁支持板35(Second Insulating Speacer)は、絶縁性を有するマイカからなる略円板状部材であり、各周縁部が整流管30の内周面に接するように配設されている。

これらの第1絶縁支持板34および第2絶縁支持板35は、整流管30の軸方向に対して直角をなし、かつ第1プレート33aおよび第2プレート33bを挟持するように対向配設されている。 ゲッター部材36(Getter Material)は、バリウム等の金属が円環状に形成されてなり、支持部材を介して第2絶縁支持板35の上方に平行をなすように設けられている。ゲッター37(Getter)は、ゲッター部材36への高周波加熱により整流管30の頂部の内周面に形成された金属皮膜であり、整流管30内部で発生するガスを吸収する役目をしている。

ここまで来れば、つぎに何を説明するかは容易に予測がつくはずです。

整流管も一卵性双生児だとすれば、「あれ」しかありません。 整流管を電気的に測定すると、電気的特性としてエミッション効率(以下、エミッションと略称する)を数値で知ることができ、このエミッションに基づいて、整流管の良否を定量的に判定することができます。 エミッションとは、カンタンに言えば、整流管30内の電子(マイナスの極性をもった電気のツブ)の放出量です。

真空管アンプの電源をオンにすると、整流管30のヒータがオレンジ色に点灯します。 「真空管の灯を見ていると心が癒されるよな」というあのオレンジ光です。 見ている分には緩やかなときが流れていますが、整流管30内部では大変なことが起こっています。オレンジ色のヒータは、高温になるため、熱電子放出作用により、オレンジ部分からは大量の電子が放出されます。

これらの電子は、マイナスの極性をもっているため、プラスが大好きで、そのプラスの極性をもった例のプレートに向かって一斉に空間を移動します。 この電子流の放出量がエミッションと呼ばれ、この数値が一定値以下になると、その真空管の寿命と判定されます。

また、整流管のエミッションは、プリ管と同様に、プレート毎に測定されます。 そうです。プレート1つにつき、1つのエミッションが測定されます。

従って、上述した画像の整流管30を測定すると、第1プレート33aのエミッション(以下、第1エミッションと称する)と、第2プレートのエミッション(以下、第2エミッションと称する)という2つのエミッションが得られます。 ここで注意すべきは、第1エミッションと第2エミッションとは、同値ではなく、差がある場合がほとんどであるという点です。差の程度も整流管毎にバラツキがあります。

例えば、整流管のエミッションの最低値は、「800」ですが、実際には、800〜2500くらいの幅でばらついて分布しているのが普通です。 上述した画像の整流管30の例に当てはめると、第1プレート33aの第1エミッションが1500、第2プレート33bの第2エミッションが2000という差が500なんてことも普通にあります。

第1プレート33aと第2プレート33bとは、一卵性双生児のように見た目は同じですが、性格(エミッション)が違うのです。

もちろん、両エミッションの差が数%以内というものもありますが、このように差が少ないものは、「双極マッチ」または「双極マッチド」と呼ばれ、全体に占める割合は非常に少なくプリ管の中のサラブレッドと言うことができます。

一卵性双生児の例ですと、見た目も性格(エミッション)も同じというケースに該当します。

第1プレート33aと第2プレート33bとの機械的誤差が、電気的特性(エミッション)の誤差として表れてきます。 この辺の説明は、ゲインをエミッションと読み替えて、プリ管のパクリです。 整流管におけるエミッションのバラツキは、直流電源の質に影響を与え、ひいてはサウンドを左右します。できるだけ、バラツキが少ない整流管を使用することがサウンド改善の基本となります。

整流管のエミッションも、見た目では絶対にわかりません。 もしも、オレンジ色の点灯状態でわかる方がいたらそれは都市伝説です。 専用の測定器で測定するしか知る術はありません。

現行品 整流管

画像左から 5U4G Svetlana Sロゴ 5U4GB EH GZ34 JJ 5AR4 Sovtek 5AR4 TRONAL 5Y3GT Sovtek

つぎに、現行品の中から6種類のプリ管をご紹介しましょう。

これらの6本は、外見が違いますが、全て一卵性双生児の構成をなしており、全波整流作用を有しています。整流管を交換することによっても、サウンドを変化させることができます。 左から1本目は、まるでパワー管のような外見ですが、これもれっきとした整流管です。

ヴィンテージ 整流管

画像左から 5U4GB RAYTHEON 初期ブラックプレート 5U4G RCA 初期ブラックプレート 5Y3GT KEN-RAD 初期ブラックプレート GZ34 Mullard ノコギリプレート ER280 RAYTHEON エンボス ボックスプレート ナス 180 Arcturus 青ナス

整流管にもヴィンテージ管があります。これらのヴィンテージ管も全て一卵性双生児の構成とされており、現行品と機能的になんら変わりはありませんが、ヴィンテージ管ならではのサウンドは格別です。 特に右の2本は、いつまでながめていても飽きません。

おまけ ソリッドタイプ 整流器(もはや整流管とは呼びません)

画像は、上述した整流管(5AR4,5U4G,5Y3G等)と差し替えができる整流器で、ガラスを使った真空管ではありませんので、間違っても整流管とは呼ぶことはできません。 この整流器は、前述の画像でピン31とハカマ32からなるような構成でハカマ32の内部にシリコンダイオード(ダイオードブリッジ)を内蔵してなるソリッドタイプです。

整流管から整流器に交換した場合には、各真空管に供給される直流電圧が高めになるため、アンプ出力が高くなり、クリアなサウンドとなります。 逆に、この整流器から整流管に交換した場合には、各真空管に供給される直流電圧が低めになるため、やわらかなサウンドとなります。ギター真空管アンプでは、歪みやすくなります。

最初のハードル マッチドペア

真空管をやりはじめると、「マッチドペア」または単に「ペア」という言葉がよく使われていることに気づきます。これが、真空管ビギナーにとって最初のハードルです。このマッチドペアの意味は正確に理解してください。理解が不十分ですと、「なんちゃってペア」等のまがいモノをつかまされることにもなりかねませんので、十分に注意してください。

マッチドペアの定義

ヴィンテージサウンドでは、「マッチドペア」をつぎのように定義しています。 「マッチドペア(またはペア)とは、2本の同一規格かつ同一ブランドの真空管であって、販売店でエージング、測定および選別され、明示的に電気的特性が揃ったものをいう。」

上記定義によれば、つぎの7つの要件を同時に満たしてはじめてマッチドペアの称号が与えられます。7つのうち1つの要件が欠けても、もはやマッチドペアとは呼ぶことはできません。

  • 【要件1】2本の真空管であること
  • 【要件2】同一規格であること
  • 【要件3】同一ブランドであること
  • 【要件4】販売店でエージングされていること
  • 【要件5】販売店で測定されていること
  • 【要件6】販売店で選別されていること
  • 【要件7】明示的に電気的特性が揃っていること

つぎに各要件について検討します。

要件1 2本の真空管であること

この要件については、異論の余地は無いと思います。ペアというくらいですから2本の真空管であることが要件となります。

要件2 同一規格であること

2本の真空管が同一の規格であることが求められます。ここでいう規格とは、真空管の工業規格を指し、具体的にはEL34,KT88,12AX7,6SN7GT,5U4GB等で、パワー管、プリ管、整流管のそれぞれについてマッチドペアが存在します。従って、マッチドペアを構成する2本は、共に例えばEL34である必要があります。これに対して、1本目がEL34で2本目がKT88の場合には、規格が異なるためマッチドペアではありません。

要件3 同一ブランドであること

マッチドペアEL34 Mullard

2本の真空管が同一ブランド(メーカー)であることが求められます。同一規格であってもブランドが異なると、内部構造の相違によりサウンドが異なるからです。例えば、上の画像のように左の1本目がムラード製のEL34であれば、右の2本目も同ブランド(ムラード)のEL34でなければなりません。

一方、 下の画像のように、左の1本目が別ブランド(TUNG-SOL)の場合には、マッチドペアではありません。

マッチドペアでない例

要件4 販売店でエージングされていること


エージング中の真空管
【ヴィンテージサウンドでエージング中の真空管】

まず、エージングとは、新品(または長期間未使用)の真空管に対して、所定の電圧を印加することにより、真空管の動作を安定化させるための電気的操作をいいます。新車に例えると、エンジンの慣らし運転に相当します。

ここで、単に電圧を印加しただけではエージングにはなりません。

真空管の規格毎に最適パラメータを設定管理することによりはじめてエージングが完了します。なお、ヴィンテージサウンドでは、独自ノウハウにより全真空管に対してエージングを実施しております。このエージングシステムは、特許出願中です。

エージングの意味はご理解いただけたと思いますが、「真空管メーカーでもエージングをやっているのでは?」という疑問が出てくると思います。 もちろん、真空管メーカーでもエージングを実施しておりますが、問題は、エージングの質です。

真空管メーカーでは、コストの関係からエージングに手間と時間をかけることが難しいため、不十分なエージングの真空管がどんどん出荷されてゆきます。不十分なエージングは、故障リスクの増大、サウンド未成熟等、真空管ユーザにとって百害あって一利無しです。

このような背景があるからこそ、販売店で責任を持ったエージングが必要となる訳です。

ここで、エージングの目的は5つあります。

初期不良因子を有する真空管は、実機で使用してからまもなく不良となるため、エージングをしないで出荷するとお客様のアンプで不良となってしまいます。

そこで、エージングにより初期不良因子を有する真空管に対して、意図的に不良を発生させているのです。 ヴィンテージサウンドでも以前は未エージングで真空管を販売していた時期がありましたが、現在のようにエージング済みの真空管を販売する体制になってからは、故障クレームが激減しました。これは、誇張でも何でもなく、エージングの効果を確信するとともに、これからも品質向上に努めてゆきたいと決意を新たにしております。

新品の真空管は、電気的特性(ex.プレート電流、相互コンダクタンス)が時間的に変動します。そこで、エージングを実施することにより、時間の経過とともに、変動幅が小さくなり、やがて安定化します。

エージングをせずに新品の真空管をいきなり実機で使用することは、新車をいきなり高速道路でレッドゾーン走行させることと同じで、真空管を痛めます。そこで、ヴィンテージサウンドでは、低い電圧から徐々に高くしてゆき、真空管にゆっくりとエージングを施してゆきます。エージング済みの真空管を実機で使用しても、すでに安定化しておりますので、長期間に亘って、パフォーマンスを発揮してくれます。長期スパンで見た場合、エージング済みの真空管のほうが、未エージングと比して長寿命となりますので、結局お買い得な真空管ということができます。

エージング前の真空管は、上記のように電気的特性が時間的に変動するため、真空管の測定値も変動します。従って、エージング前の真空管をいくら測定しても、正確な値を得ることはできません。これに対して、エージング済みの真空管は電気的特性が安定しているため、真空管の測定精度を飛躍的に高めることができるのです。

未エージングの真空管を使用すると、尖った感じで耳障りなサウンドがスピーカーから流れてきます。これに対して、エージング済みの真空管の場合、角がなく尖った感じが消え、なんとも言えない、心地よい真空管特有のまろやかなサウンドとなります。 ここまでお読みになっていかがでしょうか。 エージングは良いことだらけです。

ですが、時間と手間がかかるため、真空管販売店で独自にエージングを実施しているところは、私の知る限りでは皆無に等しく、真空管メーカーまたは真空管問屋から入荷した真空管をそのまま販売しているというのが実態です。中にはエージングという用語すら知らない販売店もあり、真空管ユーザーにとって悲しい現実です。

要件5 販売店で測定されていること

マッチドペアを選別するためには、真空管の電気的特性を測定する作業が必ず発生します。問題は、誰が測定者であるかということです。 測定者は、「真空管メーカー」、「リブランド商社」または「販売店」のいずれかです。 しかしながら、真空管メーカーの測定には、測定結果の信頼性が低く、誤差が大きいという根本的な問題があるため、ヴィンテージサウンドでは、真空管メーカーの測定結果を信用せず、一から測定し直しています。

真空管メーカーの測定結果
【真空管メーカーの測定ラベル】

上の画像の真空管は、TUNG-SOL EL34でロシア工場で測定されたものです。Ipはプレート電流(54mA)、Gmは相互コンダクタンス(8600シーメンスまたはモー)を意味しています。フォーマットは同じですので、このようなラベルが貼られた真空管が店頭に並んでいた場合には、真空管メーカーで測定された真空管であると容易に判定できます。

ここで、なぜ、真空管メーカーの測定結果は、誤差が大きいのでしょうか?

理由は3つあります。

第1の理由は、大量の真空管を測定するための測定システムの測定精度がそもそも低いからです。

真空管メーカーの測定は自動計測され、その測定結果がラベル印字され、各真空管に貼り付けられておりますが、ヴィンテージサウンドで測定しなおすと、印字された測定値に対して数10%も誤差がある真空管が当たり前のようにあります。

第2の理由は、測定結果が印字されたラベルの貼り間違いが発生するからです。

ヴィンテージサウンドで測定しなおすと、印字された測定値に対して、3倍も測定値に開きがあるケースもあり、ここまでくると誤差の範囲を超えております。原因は、ラベルを真空管または箱に張る際に取り違えたという、単純なミスと思われます。

ラベルミスは、以外と多いのです。 第3の理由は、海外の真空管メーカーから販売店までの輸送経路における振動により電気的特性が変化する場合があるからです。 ここで、問題です。 輸送経路とは、どれくらいの距離をさすのでしょうか。

答えは、地球半周くらいです。 例えば、Sovtek,Svetlana、EH等のブランドで有名なロシア製の真空管の場合、ロシアから日本へ直接輸入されるわけではありません。ロシアの真空管メーカー(工場)で製造・測定された真空管は、一旦、米国の販売商社へ集められた後に日本へ輸出されます。

つまり、ロシア→米国→日本という地球規模の移動を経てようやく販売店にたどりつくことになります。このような長旅では、何度も積み下ろしが行われるたびに真空管に機械的ストレスが加わることは想像に難くありません。真空管はとにもかくにも振動に弱いのです。 ここで、 百歩譲って、ロシアでの測定精度が極めて高かったとしても、日本に到着した頃には誤差が大きくなってしまいます。

これは、真空管の宿命および輸送システム上、回避できない問題です。 ヴィンテージサウンドでも同様の経験をしております。規模は地球規模から日本国内となりますが、真空管をご購入された国内のお客様から動作不良のご連絡をいただき、回収して再測定してみると、出荷時の測定値からかけ離れていたという事例があります。

出荷前に測定し測定値を明記しておりますので、国内輸送中の振動が影響しているということは明白です。 日本国内ですら誤差が生じるのですから、地球規模の輸送では言わずもがなです。 ロシア工場での測定値と、ヴィンテージサウンドでの測定値とを比較したデータもありますので、後日公開したいと思います。

つぎに、上述したリブランド商社について言及したいと思います。リブランド商社とは、真空管メーカーで製造された真空管に自社ブランドを付け直して販売する商社で、Groove Tube(グルーブチューブ)、TAD、RUBY等がこれに該当します。

広義では、真空管アンプメーカーが真空管に独自ブランドを付して販売するケースもリブランド商社に該当します。真空管アンプメーカーがいわゆる純正品として採用している真空管は、ロゴだけ異なり、実は広く流通している中国製、ロシア製、スロバキア製等と中身が同じであるケースがほとんどです。

例えば、ギターアンプメーカーでは、FENDER、MESA、Marshall、Peavy等が代表格で、オーディオアンプメーカーでは、真空管にそのメーカーのロゴが印刷されているものです。 リブランド商社は、エージング、真空管の測定方法や選別方法に独自色を出すことで真空管メーカーとは一線を画しているのですが、上述した第2の理由(ラベルミス)や第3の理由(輸送中の誤差拡大)により、リブランド商社の真空管と言えども測定結果を額面通り受け取る訳にはいきません。

一般論としては、リブランド商社の真空管は、真空管メーカーに比して測定精度が高いものが多いのですが、ヴィンテージサウンドでの測定実績より、明らかに第1の理由(そも測定誤差が大きい)に該当するであろうと推測される真空管を出荷しているリブランド商社も中にはありますので、注意が必要です。

かかる事情より、日本の販売店での再測定、追試験を経た上で販売されるべきですが、残念ながらこれをやっている販売店は皆無に等しいのではないでしょうか。ちなみに、ヴィンテージサウンドでは、リブランド商社の真空管であっても、真空管メーカーの真空管と分け隔てすることなく、エージング、測定および選別を行った上で販売しております。

要件6 販売店で選別されていること

上述した要件5と同じ理由から、販売店で測定された後、選別されていることが重要となります。なお、ヴィンテージサウンドでは、測定誤差が5%以内という明確な選別基準でマッチドペア、マッチドトリオ、マッチドクワッド、マッチドセクテットおよびマッチドオクテットを選別しております。

ここで、マッチドペアは、前述したように2本の特性が揃ったもの、マッチドトリオは3本の特性が揃ったもの、マッチドクワッドは4本の特性が揃ったもの、マッチドセクテットは6本の特性が揃ったもの、マッチドオクテットは8本の特性が揃ったものです。

要件7 明示的に電気的特性が揃っていること

明示的とは、測定値および選別基準がラベル表示により購入者に明示されていることを指します。

単に2本の真空管を見せられて、「特性が揃ったマッチドペアです」と言われても、私ならば絶対に信用しません。電気は目に見えませんから、購入者がマッチドペアの根拠を知るのは、購入者の権利であると同時に、販売店の義務であると考えます。

仮に、私が購入者の立場ならば、エージングの有無、どのような測定方法と測定条件で、どのような電気的特性を測定し、どのような誤差条件でマッチドペアを選別したのかを販売店に聞きます。 明確な答えが返ってこない場合には、真空管メーカーまたはリブランド商社で測定・選別されたものをスルーで販売している販売店であることがバレバレとなります。

要件4(エージング)、要件5(販売店で測定)および要件6(販売店で選別)をクリアしているならば、測定値および選別基準を購入者に明示することは極めて簡単なことのはずです。 なお、ヴィンテージサウンドでは、マッチド管の全てについて、測定値と選別基準を明示したラベルを真空管の箱に貼ることで、この要件7をクリアしております。

明示ラベル
【ヴィンテージサウンドの明示ラベル例】

画像の真空管は、EL34 Mullardで、ヴィンテージサウンドの場合、ラベルには、エージング、測定条件(プレート電圧400V、バイアス電圧-36V)、測定結果(プレート電流40mA)および選別条件(誤差5%以内)が明示されております。これにより、お客様に安心して真空管をご購入していただいております。 本テーマはこれにて終了いたしますが、真空管の測定や精度については、かなり奥が深いため、別テーマを設けて解説したいと思います。

誰も教えてくれない真空管の真実  part1 総論

「世間の常識は、業界の非常識」

「業界の常識は、世間の非常識」

これらは、昔から使い古された標語のようになりつつありますが、どの業界にいても一度はみなさんも耳にしたこと、あるいは言葉として発したことがあると思います。

かの業界も例外ではありません。

真空管自体は、形状の美しさや、ヒーター点灯時のオレンジ光に代表されるように、真空管アンプの中でも一番目立ち、物理的な存在感は超主役級で、いわば光と影の「光」に相当します。

その一方、真空管の場合には、電気という目に見えないモノ、音楽という感性に訴えるモノを扱っていることから、お客様から見えない部分も非常に多く、この部分が「影」に相当します。

真空管を語る上では、どうしても「光」の部分に注目が集まりがちですが、「影」の部分にこそ、きっちりと焦点を当てなければ真空管を正しく理解したことにはなりません。

つぎのテーマでは、「誰も教えてくれない真空管の真実」の各論を展開してゆきたいと思います。

ここで、ぜひ丸暗記してほしいこと

「真空管は、とにかく個体差が大きく、外見が同じでも中身(電気的特性)が違うのは当たり前である。」

これは、真空管業界の常識です。

今は、理解できなくても、そういうもんだと思ってください。 本コンテンツを読み進めてゆくうちに、砂に水がしみてゆくようにわかるようになりますから大丈夫です。

誰も教えてくれない真空管の真実  part2 プリ管編

TUNG-SOL 12AX7

【どれも同じに見えますか?】

画像の6本の真空管は、12AX7という規格のプリ管で、TUNG−SOLというブランドです。

「プリ管ってなんだっけ?」という方は、 ■文系のための真空管入門 part1 プリ管編 をご覧ください。

画像のプリ管は、ロシア工場→米国→日本という長旅(■最初のハードル マッチドペア参照)を経てヴィンテージサウンドが真空管メーカーから直輸入したものです。

画像のとおり、プリ管の外見は、プリント位置の若干のずれ等を除けば、どれも同じで区別がつきません。

上の画像では、箱から真空管を出して撮影していますが、箱に戻すとどうでしょうか。

TUNG-SOL 12AX7 BOX

まさに、販売店で陳列されている状態で、全く区別することができません。

ここで、思い出してください。

真空管は外見が同じでも中身(電気的特性)が違うということを。

実際にどれくらい電気的特性に違いがあるのかをお見せいたしましょう。

その前に、プリ管の構成を復習しておきます。

TUNG-SOL 構成

6本のプリ管10〜60は、第1プレートおよび第2プレートという2つのプレートをそれぞれ有しています。対応関係は、つぎの通りです。

プリ管10→第1プレート11a、第2プレート11b プリ管20→第1プレート21a、第2プレート21b プリ管30→第1プレート31a、第2プレート31b プリ管40→第1プレート41a、第2プレート41b プリ管50→第1プレート51a、第2プレート51b プリ管60→第1プレート61a、第2プレート61b

プリ管6本で合計12枚のプレートを有しています。

つぎに、ヴィンテージサウンドの日常業務で使っている真空管試験機で各プリ管の電気的特性として「ゲイン」を測定してみましょう。

ゲインは、プレート毎に測定されますので、1本のプリ管あたり2つのゲインが測定されます。ここが重要なポイントです。例えば、プリ管10では、第1プレート11aのゲイン(第1ゲイン)と、第2プレート11bのゲイン(第2ゲイン)という2つのゲインが測定されるということです。

このように、プリ管の場合には、1本あたり、ゲインを2回も測定しなければならないため、1回の測定で済むパワー管よりも測定に要する時間、手間が2倍かかることになります。

そして、気になる測定結果はつぎの通りとなりました。

ゲインのばらつき具合に思わず「ウソでしょ」という声が聞こえてきそうですが、正真正銘、実際の測定結果です。「12AX7のゲインは100だ」という巷の話は、全くの都市伝説であることがおわかりいただけたことでしょう。ばらつきが大きいものをブログ用に選別したわけではなく、今回入荷した100本からランダムに6本をピックアップしたものです。

何百本ものプリ管を日常的に測定している私からしてみれば、当たり前のことで、これが真空管業界の常識です。

まさか、「自分の真空管アンプのプリ管だけはそうじゃない。ゲイン(電気的特性)が揃っているはずだ」なんてことを考えていませんか?

現実はそう甘くありません。

ヴィンテージサウンドでは、真空管の健康診断と称して、お客様の真空管をお預かりして測定するサービスを実施しています。真空管アンプに実装されている真空管一式(パワー管、プリ管、整流管)を依頼されるケースが多いのですが、かれこれ、1000件あまりの測定をした実績からすると、プリ管のゲインがバラバラであるケースがほとんどです。

これに対して、パワー管は、比較的、電気的特性(プレート電流)が揃っているケースが圧倒的に多いのです。

同じ真空管であっても、パワー管はバラつきが少なく、プリ管のバラつきが大きいのはなぜでしょうか。

「パワー管は丈夫で、プリ管はヘタリ易いから?」・・・・・・全然違います。 「それとも、パワー管はそもそも個体差が小さく、プリ管は個体差が大きいから?」・・・・・これも違います。

答えは、簡単です。

パワー管は電気的特性が揃ったものを選別して販売しているのに対して、プリ管は選別しないで十把ひとからげ的に販売しているからです。

いかがですか。非常に明快な答えでしょう。 そもそも、プリ管を選別していないのですから、揃っているはずがありません。無理からぬ話です。

パワー管については、マッチドペア、マッチドクワッド等のように、特性が揃っているものを販売すること、使うことが当たり前で、販売店と世間(真空管ユーザ)との常識がめずらしく一致しています。販世一致とでも申しましょうか。

これに対して、プリ管は、電気的特性が揃ったマッチド管を選別・販売すること、使用することの概念すら皆無に等しいのが現状です。どうやら、販売店と世間(真空管ユーザ)の共通認識のようです。

少なくとも、ヴィンテージサウンドが2008年7月からプリ管の双極マッチ、マッチドペア2本、マッチドトリオ3本、マッチドクワッド4本およびマッチドセクテット6本を発売した時点では、国内の販売サイトのどこを見回しても、プリ管のマッチド管を販売しているところはありませんでした。現在でも変わり映えしません。

ここで、プリ管のマッチドの考え方には、「内的マッチド」と「外的マッチド」という2種類がありますので、確認しておきましょう。前述したプリ管の構成(プレートが2枚)を知っていれば、容易に理解できます。

内的マッチド

TUNG-SOL 12AX7 内的マッチド

内的マッチドは、1本の真空管内におけるマッチドです。上記画像において、プリ管10は、第1プレート11aおよび第2プレート11bを有しております。このプリ管10を真空管試験機で測定すると、第1プレート11aの電気的特性である第1ゲインと、第2プレート11bの電気的特性である第2ゲインとが得られます。

第1ゲインと第2ゲインとを比較するとつぎの2つのケースのうちいずれかの結果となります。

<ケース1>内的マッチド管 第1ゲインと第2ゲインの誤差が所定値*以下である場合 →両ゲインが揃っている。 → 双極マッチまたは双極マッチドと呼ばれており、絶対数が少ないため希少。

<ケース2>アンマッチ管 第1ゲインと第2ゲインの誤差が所定値*より大きい場合 →両ゲインにバラつきがある。 →ほとんどのプリ管がこれに該当。

(*)ヴィンテージサウンドでは、上記所定値を5%として選別しております。

内的マッチド実測値

上記グラフにおいて、1本目は、<ケース1>内的マッチド管(双極マッチ)のゲイン実測値で、第1プレートのゲインと、第2プレートのゲインとの差がごく僅かで、特性が揃っているのがわかります。

一方、2本目は、<ケース2>アンマッチ管のゲイン実測値で、第1プレートのゲインと、第2プレートのゲインとの差が非常に大きく、特性にバラツキがあることがわかります。

外的マッチド

TUNG-SOL 12AX7 外的マッチド

外的マッチドは、複数の真空管間におけるマッチドです。 上記画像において、6本のプリ管10、20、30、40、50および60の各プレート11a、11b、・・・、61aおよび61b(合計12枚)の各ゲインの誤差がごく僅かである場合を外的マッチドと言います。

具体的には、つぎのグラフに示した1本目〜6本目までのようにゲイン誤差が所定値以下である場合を外的マッチドと呼びます。なお、同グラフにおいて、7本目は比較のためのデータでアンマッチ管です。

外的マッチ ゲイン分布

この場合には、6本のプリ管のゲインが揃っているということで、マッチドセクテットと呼ばれています。参考までに、2本であればマッチドペア、3本であればマッチドトリオ、4本であればマッチドクワッドと呼ばれています。

ここで注意すべきは、【内的マッチド】としての双極マッチ管が単に6本あっても、マッチドセクテットではありません。単なる寄せ集めに過ぎません。双極マッチでもゲインが低いものや、高いものがあるからです。 ゲインがほぼ同じ双極マッチが6本揃って、はじめて、マッチドセクテットの称号が与えられます。

6本のプリ管ということは、都合12ものゲインが揃っていなければなりません。いかにハードルが高いかお分かりいただけたでしょうか。いわば、プリ管のエリート集団です。

これで驚いてはいけません。 世の中、上には上があるとは良く言ったものです。 プリ管にも、さらに上をいく超エリート集団が存在します。

それは、完全マッチドです。

上述した内的マッチド(双極マッチ)および外的マッチド(マッチドセクテット、マッチドペア等)では、ゲインの誤差が所定値(5%)以下のプリ管を指しますが、中には、誤差が限りなくゼロに近い、完全マッチドというプリ管も稀に存在します。

この完全マッチドこそが完全マッチドです。

私共は、日々の測定業務において、ゲインがきれいにそろった完全マッチドを発見すると、宝物を見つけたような気持ちになります。

「完全マッチドは、電気的に美しい」 このように言わしめるほど、私共にとっても完全マッチドは特別な存在です。

しかしながら、ヴィンテージサウンドでは、プリ管の完全マッチドとして2種類しかご用意できません。

双極マッチ(1本)とマッチドペア(2本)の2種類だけです。

その希少性故に、完全マッチドのマッチドクワッド(4本)やマッチドセクテット(6本)を揃えることができないからです。

本物の完全マッチドをお見せいたしましょう。

完全マッチド(マッチドペア)

プレミアムペア

ヴィンテージサウンドの実際の在庫品を撮影したものです。下のグラフでは、プレミアムペア(1本目および2本目)の各ゲインがきれいに「103」に揃っています。なお、3本目は、比較用でアンマッチ管です。

プリ管10 第1プレート11a→ゲイン103 第2プレート11b→ゲイン103

プリ管20 第1プレート21a→ゲイン103 第2プレート22b→ゲイン103

プレミアム ゲイン実測値

プリ管の真実をお分かりいただけたでしょうか。このように、プリ管は、ゲインが全然揃っていないもの、揃っているもの、完全に揃っているものという3種類が存在し、一般の販売店では、選別していないため、購入時にどの種類が来るかはまさに運次第なのです。お客様にとっては、信じられないかもしれませんが、これも真空管業界の常識です。

販売店の店頭でプリ管の測定結果が明記されたものをご覧になったことはありますか。私は見たことがありません。つまり、プリ管は、選別などされないまま販売されています。そして、ユーザは、この事実を販売店から知らされないまま、何の疑問もなく、バラつきがあるプリ管を使い続けているという現実があります。これは、販売店の怠慢でユーザにとって悲劇としかいいようがありません。なお、ヴィンテージサウンドでは、プリ管を選別したマッチド管に測定値を明記して、マッチドの根拠を明示しております。

それでは、なぜ、販売店は、パワー管は選別したものを販売しているのに、プリ管は選別しないで販売しているのでしょうか。理由は、単純明快です。

理由1

手間とコストがかかるから プリ管は、プレートが2枚あるので、測定も2回しなければならず、パワー管の2倍の手間とコストがかかるのです。ですから、そもそも、プリ管の測定や選別はやりたくないというのが、販売店の本音です。

理由2

パワー管よりも歩留まりが高いから パワー管は、新品検査時の故障率が以外と高く、ノーチェックでの販売はクレーム処理の山となるため、現実的ではありませんが、プリ管ですと、やろうと思えば可能です。プリ管は、新品検査時の故障率が非常に低いため、仮に、ノーチェックで販売してもクレームはほとんど来ないと思います。巷で安価に販売されているプリ管は、このケースと思われます。

理由3

デバイスとしてプリ管を軽視しているから プリ管は、微弱な信号を最初に増幅し、音色の味付けを決定する重要なデバイスですが、パワー管よりも小さく存在感がありませんので、脇役的なイメージがどうしても付きまといます。プリ管のバラつきがサウンドのバラつきに直結するにもかかわらず、実際には、プリ管にバラつきがあっても、最悪なことにとりあえず音がでてしまうので、ユーザからもクレームが来ません。これを知ってか知らずか、プリ管は、軽視されつづけ、未測定・選別のまま販売されつづけています。

未測定・選別のプリ管を購入した場合には、特性がそろっているか否かは「あなたの運次第」となってしまいます。

ここで、断言します。 プリ管が運次第では、サウンドも運次第となり、真空管をとっかえ、ひっかえするという負のスパイラルに嵌まり、お金ばかりが出てゆくことになります。第一に効率的ではありません。真空管で理想のサウンドを設計するというサウンドデザインは、理論に基づき、経済的に行われるべきです。

プリ管のゲイン(電気的特性)を把握した上で、マッチド管(双極マッチ(1本)、マッチドペア(2本)、マッチドトリオ(3本)、マッチドクワッド(4本)またはマッチドセクテット(6本)を真空管アンプの適所に使うことにより、経済的かつ飛躍的にパフォーマンスを高めることができるのです。

「本当か?」というお客様の声が聞こえてきそうなので、マッチド管を使った場合のメリットを、真空管式オーディオアンプと、真空管式ギターアンプとに分けて詳述します。なぜ、分けるのかと言えば、大きな理由として、真空管式オーディオアンプがスピーカ2系統のステレオ構成であるのに対して、真空管式ギターアンプは、スピーカ1系統のモノラル構成で、両者のスピーカの構成が異なるからです。

真空管式オーディオアンプにプリ管のマッチドを使うメリット

オーディオアンプの場合のメリット1 →設計通りの最高パフォーマンスを発揮することができる!

そもそもの話ですが、真空管式オーディオアンプを設計する際、設計者は、同じ規格(例えば、12AX7)のプリ管であれば、ゲインが全て等しいことを大前提に、最高のパフォーマンスが発揮されるように、各部のパラメータを計算し、回路図に起こしてゆきます。

前述のゲイン実測値から明らかなように、プリ管のゲインが全て等しいとは、現実離れも甚だしく、まさに、理想ゲインです。なお、電子工学の理論では、計算を楽にするために、現実にはあり得ないモデルを「理想○○」として仮定することはよくあることですが、真空管式オーディオアンプの設計においても同じことが言えます。

従って、実際のプリ管のゲインのバラツキが大きいほど、設計上の最高パフォーマンスからどんどん離れてゆきます。つまり、本来であれば、発揮されるであろうサウンドには、ほど遠い状況になります。ゲインのバラツキは、自動車でインチ径がそれぞれが異なるタイヤで走行するようなものです。乗り心地が良いはずがありません。

これに対して、ゲインのバラツキができるだけ少ないプリ管を使うと、設計上の最高パフォーマンスに近づくことになり、当然、サウンドの向上を図ることができます。これは、インチ径が同じタイヤで走行していると同じ状態ですから、乗り心地が良いことはもとより、高速走行でもパフォーマンスを発揮できます。要は、プリ管のバラつき(ゲイン差)とは、こういうことなのです。

オーディオアンプの場合のメリット2 →左右スピーカーのバランスをとることができる!

また、真空管式オーディオアンプの場合には、左スピーカおよび右スピーカに対応させて、2系統のプリ管が使われます。2系統のプリ管の本数は、アンプに応じてケースバイケースで、最低1本あればよく、高度な設計になるほど2本、3本、4本、6本、etcとその数が増えてゆきます。

「あなたのアンプには何本のプリ管が実装されていますか。」

ここで、もう一度、プリ管の構成を思い出してください。 プリ管は、一卵性双生児の構成、すなわち、第1プレートおよび第2プレートを有する構成でしたね。

プリ管1本

プリ管1本構成

真空管式オーディオアンプに1本のプリ管10が実装されている場合には、例えば、第1プレート11aが左スピーカに対応し、第2プレート11bが右スピーカに対応しています。真空管式オーディオアンプの場合には、左右スピーカのバランスが肝で、このバランスが完全にとられていることが理想となります。

これを踏まえて、プリ管10の第1プレート11aのゲインと、第2プレート11bのゲインとの誤差が大きい場合、左右スピーカのバランスは当然崩れます。右スピーカーのほうが左スピーカよりも音量が大きいとか、右スピーカの低域が出ない等のアンバランスな最悪の状況となります。

残念ながら、ヴィンテージサウンドに健康診断を依頼されたプリ管を測定すると、特性が揃ったものはほとんどなく、そのほとんどは、アンバランスなゲインのプリ管です。

にもかかわらず、なぜ、この問題が顕在化しにくいかといえば、最初は左右アンバランスなサウンドに違和感を感じたとしても、人間の耳はそれに順応しようとし、いつの間にか慣れてしまうからです。慣れとは恐ろしいもので、どんなに高価なコンポーネント(真空管アンプ、スピーカー、プレイヤー等)を導入しても、たったプリ管1本が原因ですべてが台無しになっていることに気づかないのです。

1本のプリ管を双極マッチに交換するだけで、ご機嫌なサウンドライフが待っているのです。 何万円もする高価なケーブルに交換する前に、わずか数千円の投資で済むプリ管を交換してみませんか。これこそ、生きたお金の使い方です。

プリ管2本

プリ管2本

真空管式オーディオアンプに2本のプリ管10および20が実装されている場合には、1本目のプリ管10が左スピーカに対応し、2本目のプリ管20が右スピーカに対応しています。

1本目のプリ管10のプレート11aおよび11bの各ゲインと、2本目のプリ管20のプレート21aおよび21bの各ゲインとの誤差が大きいとどうなるでしょうか。

みなさん、もうおわかりですね。

そうです、左右スピーカがアンバランスとなり、違和感を感じます。

改善策は、2本のプリ管10および20のゲインが揃ったもの、すなわち、4つのゲインが揃ったマッチドペア(2本)に交換することです。もちろん、理想的には、完全マッチの完全マッチドのマッチドペアです。

プリ管3本

プリ管3本

真空管式オーディオアンプに3本のプリ管が実装されている場合には、左右スピーカとの対応関係はどうなるでしょうか。

答えはかんたんです。

プリ管1本とプリ管2本との合わせ技で解決できます。

1本目のプリ管10の第1プレート11aが左スピーカ、同プリ管10の第2プレート11bが右スピーカ、2本目のプリ管20(第1プレート21a、第2プレート21b)が左スピーカ、3本目のプリ管30(第1プレート31a、第2プレート31b)が右スピーカにそれぞれ対応しております。

プリ管10、プリ管20およびプリ管30の各ゲイン(プレートが6枚なので6つのゲイン)の誤差が大きいと、当然、左右スピーカがアンバランスとなり、違和感を感じます。

改善策といえば、3本のプリ管10、20および30のゲインが揃ったもの、すなわち、6つのゲインが揃ったマッチドトリオ(3本)に交換することです。残念ながら、マッチドトリオについては、完全マッチの完全マッチドの設定はありません。

プリ管4本

プリ管4本

真空管式オーディオアンプに4本のプリ管が実装されている場合には、2本づつが左右スピーカに対応しております。

具体的には、1本目のプリ管10(第1プレート11a、第2プレート11b)および2本目のプリ管20(第1プレート21a、第2プレート21b)が左スピーカに対応しております。

一方、3本目のプリ管30(第1プレート31a、第2プレート31b)および4本目のプリ管40(第1プレート41a、第2プレート41b)は、右スピーカに対応しております。

プリ管10、プリ管20、プリ管30およびプリ管40の各ゲイン(プレートが8枚なので8つのゲイン)の誤差が大きいと、当然、左右スピーカがアンバランスとなり、違和感を感じます。

改善策といえば、4本のプリ管10、20、30および40のゲインが揃ったもの、すなわち、8つのゲインが揃ったマッチドクワッド(4本)に交換することです。残念ながら、マッチドクワッドについても、完全マッチである完全マッチドの設定はありません。

プリ管5本

プリ管5本

真空管式オーディオアンプに5本のプリ管が実装されている場合には、左右スピーカとの対応関係はどうなるでしょうか。

答えはもうおわかりですね。

そうです。プリ管1本とプリ管4本との合わせ技で解決できます。

1本目のプリ管10の第1プレート11aが左スピーカ、同プリ管10の第2プレート11bが右スピーカに対応しております。

さらに、2本目のプリ管20(第1プレート21a、第2プレート21b)および3本目のプリ管30(第1プレート31a、第2プレート31b)が左スピーカに対応しているとともに、4本目のプリ管40(第1プレート41a、第2プレート41b)および5本目のプリ管50(第1プレート51a、第2プレート51b)は、右スピーカに対応しております。

プリ管10、プリ管20、プリ管30、プリ管40およびプリ管50の各ゲイン(プレートが10枚なので10のゲイン)の誤差が大きいと、当然、左右スピーカがアンバランスとなり、違和感を感じます。

改善策といえば、5本のプリ管10、20、30、40および50のゲインが揃ったもの交換してください。なお、ヴィンテージサウンドでは、5本マッチの設定が無いため、マッチドセクテット6本をお使いになり、残り1本を予備球とされることをお奨めいたします。

プリ管6本

プリ管6本

最後に、真空管式オーディオアンプに6本のプリ管が実装されている場合には、3本づつが左右スピーカに対応しております。

具体的には、1本目のプリ管10(第1プレート11a、第2プレート11b)、2本目のプリ管20(第1プレート21a、第2プレート21b)および3本目のプリ管30(第1プレート31a、第2プレート31b)が左スピーカに対応しております。

一方、4本目のプリ管40(第1プレート41a、第2プレート41b)、5本目のプリ管50(第1プレート51a、第2プレート51b)および6本目のプリ管60(第1プレート61a、第2プレート61b)は、右スピーカに対応しております。

プリ管10、プリ管20、プリ管30、プリ管40、プリ管50およびプリ管60の各ゲイン(プレートが12枚なので12のゲイン)の誤差が大きいと、当然、左右スピーカがアンバランスとなり、違和感を感じます。

改善策といえば、6本のプリ管10、20、30、40、50および60のゲインが揃ったもの、すなわち、12のゲインが揃ったマッチドセクテット(6本)に交換することです。

オーディオアンプの場合のメリット3 →理想サウンドを維持することができる!

「前と同じブランドのプリ管に交換したのに、サウンドが変わってしまった」という経験は誰しもあるでしょう。

なぜ、同じブランドなのに、サウンドが変わってしまうのでしょうか。読者の皆様なら答えはかんたんですね。理由は、同ブランドであっても、電気的特性(ゲイン)が異なるからです。そうです。真空管の個体差が原因です。

逆の言い方をすれば、同じブランドの同じゲインのマッチドプリ管に交換すれば、交換後も理想サウンドを維持し続けることができます。

ヴィンテージサウンドでは、ご購入いただいたマッチドプリ管にゲインが明記されておりますので、次回購入時にそのゲインを指定していただければ、同ブランドかつ同ゲインのプリ管を容易に入手することができるため、いつまでもお気に入りのサウンドをご堪能いただけます。

真空管式ギターアンプにプリ管のマッチドを使うメリット

次に、真空管式ギターアンプを語る前に、真空管式オーディオアンプとの相違点を理解しておきましょう。

真空管式ギターアンプの場合には、エントリーモデルを除き、ギターサウンドのエフェクト(効果)に対応させて、 クリーン系チャネル、歪系チャネル、ファズ系チャネル等が設けられており、各チャネルに複数のプリ管が割り当てられるという、真空管式オーディオアンプとは異なる構成とされております。グレードが上がるほど、チャネル数およびプリ管の本数も増加します。エフェクト以外にも、増幅、位相変換や混合等の用途で複数のプリ管が使われております。

また、真空管式ギターアンプの場合は、スピーカーが1系統のモノラルチャネルという点でも、2系統のステレオチャネルを有する真空管式オーディオアンプとは構成が異なります。

なんといっても、真空管式ギターアンプと真空管式オーディオアンプとの一番の違いは、真空管の動作領域です。ここで動作領域とは、真空管を動作させる場合の電気的な条件(例えば、何ボルトのプレート電圧およびグリッド電圧を印加して何アンペアのプレート電流を流すか)を指します。車に例えるならば、何回転でエンジンを駆動するかということです。

真空管式オーディオアンプの場合には、動作領域として、歪が最も少なく、安定動作が得られる定常領域を使います。車ならば、タコメータのレッドゾーンよりもずっと低い回転数領域を使います。これは、歪をいかに0に近づけるかがオーディオ再生の大命題だからです。定常領域での動作は、真空管にとって定格内のためやさしい使用条件となり、長持ちします。

これに対して、真空管式ギターアンプの場合には、動作領域として、歪が多く、動作が不安定な飽和領域を使います。そうです。レッドゾーン超えです。これは、定常領域では到底得られないサウンドを飽和領域で実現するためです。真空管式ギターアンプは、楽器の一部なので、いかに特徴のあるサウンドを作り出すかが設計者の腕の見せどころなのです。

飽和領域における真空管の使用は、定格電圧以上の高電圧を印加するため、真空管にとって、定格外の過酷な使用条件となり、当然のことながら真空管の劣化が早くなります。真空管の寿命は、定格電圧比(印加電圧/定格電圧)の2乗に反比例するといわれておりますので、飽和領域で定格電圧の2倍の電圧を真空管に印加している場合には、2の2乗で、寿命は、4分の1となります。

使用頻度にもよりますが、真空管式オーディオアンプの真空管寿命が3〜5年であるのに対して、真空管式ギターアンプの真空管寿命(サウンドの旬)は、1年前後と言われております。この寿命の違いは、動作領域の違いが原因です。

「俺のギターアンプは、2年ももってるぞ」という声も聞こえてきそうですが、とりあえず音は出ているものの、サウンドの旬はとっく過ぎており、いわば賞味期限切れサウンドとなっているケースが多く見受けられます。サウンドのノリに違和感を感じたり、音痩せ、歪不足、ノイズが気になるようになったら、いよいよ、サウンドの旬の終焉のサインです。早めに交換しましょう。

ここで、両アンプの相違点を理解できたところで、いよいよ核心に迫ります。

ギターアンプの場合のメリット1 →設計通りのパフォーマンスを発揮することができる!

真空管式オーディオアンプと同様にして、真空管式ギターアンプを設計する際も、設計者は、同じ規格(例えば、12AX7)のプリ管であれば、ゲインが全て等しいことを大前提に、そのアンプ固有のオリジナルサウンドとなるように、各部のパラメータを計算し、回路図に起こしてゆきます。

従って、実際のプリ管のゲインのバラツキが大きいほど、設計者が意図したサウンドからどんどん離れてゆきます。つまり、本来であれば、発揮されるであろうサウンドには、ほど遠い状況になります。

特に、真空管式ギターアンプの場合には、飽和領域で真空管を動作させているため、プリ管の僅かなゲイン差であってもサウンドに及ぼす影響が非常に大きく、真空管式オーディオアンプとは比べ物にならないくらい、シビアです。

レッドゾーン回転(飽和領域)で高速走行している車の場合、ハンドルを僅かに回転させただけでも、車体の挙動に大きく影響するのと同じことです。のんびりした30キロ走行(定常領域)の場合とは比べ物になりません。

これに対して、ゲインのバラツキができるだけ少ないプリ管を使うと、設計通りのサウンドにより近づき、そのギターアンプ本来のオリジナルサウンドを体感することができるのです。

ギターアンプの場合のメリット2 →最短距離で理想サウンドに到達することができる!

ギターアンプは、純粋な増幅機能というよりも、楽器の一部機能としての役割が大きいことは周知の事実ですが、その音作りには誰しも関心が高いはずです。つまり、そのギターアンプを使って、いかに自身が理想とするサウンドに近づけるかという一点に絞って、試行錯誤を繰り返すことになります。

ここで、ギターアンプのサウンドを変化させるための主なファクター12を確認しておきましょう。これらのファクター12のうち一つでも変化させることにより、程度の差こそあれサウンドが変化します。数学に例えると、各ファクターは、理想サウンド関数f(x1、x2、x3、・・・、x12)の各変数に該当します。

  • (1)電源のクオリティ
  • (2)線材のブランド
  • (3)ハンダのブランド
  • (4)コンデンサのブランド
  • (5)プリ管のブランド
  • (6)プリ管のゲイン
  • (7)パワー管のブランド
  • (8)パワー管のパワー
  • (9)整流器の種類
  • (10)整流管の規格
  • (11)整流管のブランド
  • (12)トランスのブランド

つぎに、各ファクターについて詳述します。

(1)電源のクオリティ

電源が無ければ、どんなに高価なアンプもただの箱です。アンプの各部に供給される電源は、サウンドを根本から支配する要のファクターで、この良し悪しですべてが決まってしまうといっても過言ではありません。ほぼ100%のアンプの電源は、商用電源で、いわゆるコンセント電源(AC100V)です。実際の商用電源は、かなりのクセモノで、電圧が変動するわ、ノイズが多いわ、周波数が変動するわ等、アンプにとっての悪条件がこれでもかという位に揃っています。電源に関しては、つぎの点を留意することが基本中の基本となります。

  • (a)電源電圧がアンプの定格動作電圧であること
  • (b)電源電圧・周波数の変動ができるだけ小さいこと
  • (c)電源ノイズができるだけ少ないこと

以下、各論について詳述します。

(a)電源電圧がアンプの定格動作電圧であること

定格動作電圧が117Vの海外製アンプに、日本の商用電源100Vをそのまま使っている方はいませんか?日本の商用電源100Vのほうがアンプにはやさしいから真空管が長持ちするんだという、苦しまぎれの言い訳も聞こえてきそうですが、残念ながら、間違った使い方です。すぐに、スライダックかステップアップトランスを購入して、117Vの電源電圧をアンプに供給してください。アンプからのサウンドが見違えるほど、張りのあるものに代わっているはずです。

スライダックは、商用電源100Vを0Vから例えば130Vくらいまで可変することができるトランスで、可変範囲としてさまざまなタイプが用意されておりますので、使用アンプに応じて適宜選択してください。ステップアンプトランスは、商用電源を100Vから例えば117Vに固定的に変換するためのトランスです。スライダックのほうが汎用性が高く高価です。

(b)電源電圧・周波数の変動ができるだけ小さいこと

商用電源は、100Vで一定だと思っている方はいませんか?実際には、時間帯や、負荷の大小によって、大きく変動します。一般的には、負荷が大きい日中のほうが、夜間よりも電圧変動が大きくなる傾向にあります。また、家庭での使用ですと、エアコン、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機等をフル稼働させると、ブレーカーから見た負荷が大きくなり、電圧変動も大きくなります。電源周波数も同様に負荷の状況によって変動します。

電源電圧や周波数変動対策には、安定化電源を導入することをお勧めいたします。但し、安定化電源にも性能に応じてピンキリの価格がありますので、ご予算に応じて適宜選択する必要があります。

(c)電源ノイズができるだけ少ないこと

商用電源の波形は、サイン波(三角関数のsinθ)ですが、あのように美しい波形ではありません。実際には、純粋なサイン波にノイズが重畳された波形となります。このノイズは、電源ノイズとして、アンプのサウンドに悪影響を与えます。家庭におけるノイズの発生源は、回転負荷、スイッチング電源等です。回転負荷は、洗濯機のモーター、冷蔵庫のコンプレッサ等です。スイッチング電源は、パソコンの内蔵電源等です。原因がわかれば、対策は簡単です。これらのノイズ発生源とアンプの電源系統を別にするとともに、ノイズフィルターを各部に入れることです。

(2)線材のブランド 線材

線材のブランド 線材とは、電源ケーブルや、スピーカーケーブル、アンプ内部の配線のことです。この線材もピンキリで、1m数十円のものから数万円のものまであります。顕著な効果があるかは別として、中には、数十万円/本もするケーブルも市販されています。しかしながら、科学的な解明はまだされていないものの、線材のブランドを変更することにより、程度の差こそあれサウンドに変化をもたらすことは現象として事実です。理屈はわからなくても現象としてあれば、これを利用しない手はありません。

線材にも、現行品とヴィンテージ品とがあり、A社の線材はいいぞ、ウエスタンエレクトリックのヴィンテージ線材はいいぞ等の情報が飛び交っていますが、実際には、予算にあわせて、トライアンドエラーで交換してみるのが良いと思います。ハンダごてさばきに自信がある方はぜひお試しください。

(3)ハンダのブランド

ハンダと一口に言っても、ブランドによって含有成分がまちまちで、銀入り、フラックス無し、無鉛等が市販されております。ハンダは、電子部品の接続点に必ず使われておりますので、見過ごせないファクターです。ハンダの場合も、科学的な解明はされておりませんが、ハンダのブランドを変更すると、サウンドに変化をもたらすことは事実です。中には、ハンダ吸い取り器とハンダごてを振り回して、全ハンダの付け直しをしたという強者もいるほどです。ハンダにも現行品とヴィンテージ品とがありますが、憧れとその存在感からヴィンテージ品の人気が高い傾向にあります。

(4)コンデンサのブランド

真空管アンプ回路は、電源系回路と信号系回路に大別されますが、両回路にコンデンサが使われております。代表格として、電源系回路では平滑コンデンサ、信号系回路では、バイパスコンデンサ、カップリングコンデンサ等です。これらのコンデンサにもさまざまなブランドと価格帯があり、ブランドによってサウンドが変化します。ヴィンテージ品で有名どころは、ブラックビューティー、バンブルビー、ビタミンQ等です。ヴィンテージアンプでは、発売当時のサウンドを維持するために、消耗品としてのコンデンサを定期的にオリジナルコンデンサに交換することが重要となってきます。コンデンサは、熱に弱く必ず劣化しますので、定期交換パーツの一つです。膨らみや液漏れ、ヒビ割れを発見したら、即時の交換が必要です。

(5)プリ管のブランド

同じ規格(例えば、12AX7)のプリ管でもさまざまなブランドが存在します。ブランド毎に構成が異なるため、それに伴って電気的特性が微妙に異なり、ひいては、サウンドの相違となります。一言で言えば、プリ管のブランドを変えることで、サウンドを変化させることができます。このようなカスタム感は、ソリッドステートアンプには無い、真空管アンプの魅力の一つです。

(6)プリ管のゲイン

真空管は個体差が非常に大きいため、同じブランドのプリ管であっても、電気的特性(ゲイン)にバラつきがあります。つまり、ゲインが高いプリ管もあれば、ゲインが低いプリ管もあります。ゲインが高ければ、歪みやすくなり、低ければ歪にくくなります。

(7)パワー管のブランド

プリ管と同様にして、同じ規格(例えば、EL34)であってもさまざまなブランドが存在し、ブランド毎に構成の相違によるサウンド変化を楽しむことができます。

(8)パワー管のパワー

パワー管もプリ管と同様にして、個体差が大きいため、同じブランドのパワー管であっても、電気的特性(プレート電流、パワー)にバラつきがあります。このパワーの相違によって、サウンドの音圧感、輪郭等を自在に変化させることができます。

(9)整流器の種類

商用電源(交流電源)から直流電源を作り出す役目が整流器にあるのですが、整流器としては、ソリッドステート(半導体)と整流管(真空管)のいずれかが用いられています。ソリッドステートと整流管とでは、出力電圧の相違により、サウンドキャラクタが異なります。ソリッドステートは、音圧感のあるクリアサウンド、整流管は、それよりもやわらかいサウンドとなります。ソリッドステートタイプの場合には、整流管に交換することができませんので、それを使うしかありません。一方、整流管タイプの場合には、ソリッドステートに交換もできるため、サウンドを変化させることができます。従って、整流管タイプのほうがサウンドデザインの自由度が高いということができます。

(10)整流管の規格

整流管にもさまざまな規格があり、代表的なものは、5U4GB,5U4G,5Y3GT,GZ34/5AR4等です。これらの規格毎に出力電圧が異なるため、互換性があるものに関して、規格を変更することにより、サウンドを変化させることができます。

(12)トランスのブランド

真空管アンプの場合には、真空管回路の出力インピーダンスが高く、スピーカーのインピーダンスが低いため、両者のインピーダンスマッチングを図る必要があります。その役目を担うのがトランスで、この良し悪しがサウンドに多大な影響を及ぼします。トランスにも様々なブランドがありますので、自在にサウンドを変化させることができます。但し、トランス交換は、大手術となりますので、真空管交換のように気軽にできないのが難点です。

話が大きく横道にそれましたが、真空管式ギターアンプにプリ管のマッチドを使うことで、最短距離で理想サウンドに到達することができる理由について述べます。

上述の「(5)プリ管のブランド」および「(6)プリ管のゲイン」で説明したように、プリ管に関しては、ブランドとゲインという2つのファクターによりサウンドが変化します。

ここで、具体例として、4本のプリ管を実装しているギターアンプを例に理想サウンドに到達するまでの手法について、【一般的な手法】と、【ヴィンテージサウンドが提唱する手法】とに分けて説明します。ここでは、プリ管として、「ブランドBの高ゲイン」が、理想サウンドを実現することができる最適解だと仮定します。

一般的な手法 ・ブランドA 4本 ・ブランドB 4本 ・ブランドC 4本

一般の販売店では、上記各ブランドの4本のゲインはバラバラで揃っていません。従って、ゲインというファクターは、運次第となりますので、自発的にコントロールすることができません。

一般的な手法の場合には、まず、ブランドA(4本)を実装して、ギターを弾き、サウンドを評価します。ここで注意すべきは、4本のゲインが揃っていないため、歪み具合をゲインという数値に基づいて、定量的に判断することができません。従って、ブランドAについては、歪みやすいとか歪みにくいという、ゲインを無視した極めて乱暴な判断しかできません。つまり、ゲインが不明な状態では、正確なサウンド評価はできません。

ここでは、ブランドAのサウンド評価はNGだったとします。

つぎに、ブランドB(4本)に交換して、ギターを弾き、サウンドを評価します。もちろん、ブランドBの4本はゲインにバラツキがありますので、最適解の高ゲインとして揃っている可能性は0%です。従って、この場合には、ブランドBのサウンド評価はNGとなります。

つぎに、ブランドB(4本)を交換した場合にも、同様にNGとなります。これ以降は、別のブランドD、ブランドE、ブランドF、ブランドG、・・・・・という、ありとあらゆるブランドを手当たり次第交換するという負のスパイラルに突入してゆきます。これでは、いくら時間とお金があっても、「ブランドBの高ゲイン」という最適解にはたどり着きません。

皮肉を込めて言わせていただくと、真空管屋と楽器屋を儲けさせるだけです。

これは、ゲインという重要なファクターを無視して、ブランドだけに頼ってしまったことが原因です。

ヴィンテージサウンドが提唱する手法

ヴィンテージサウンドでは、全プリ管を実測して、ゲイン別に選別・販売しておりますので、つぎのようなラインナップから選択することができます。

・ブランドA 4本マッチ 低ゲイン ・ブランドA 4本マッチ 中ゲイン ・ブランドA 4本マッチ 高ゲイン ・ブランドB 4本マッチ 低ゲイン ・ブランドB 4本マッチ 中ゲイン ・ブランドB 4本マッチ 高ゲイン(最適解) ・ブランドC 4本マッチ 低ゲイン ・ブランドC 4本マッチ 中ゲイン ・ブランドC 4本マッチ 高ゲイン

まず、「ブランドA 4本マッチ 低ゲイン」を実装して、ギターを弾き、サウンドを評価します。この場合には、サウンド評価は、NGとなります。以後、「ブランドA 4本マッチ 中ゲイン」→ 「ブランドA 4本マッチ 高ゲイン」→「ブランドB 4本マッチ 低ゲイン」→「ブランドB 4本マッチ 中ゲイン」の順に、プリ管の交換とサウンド評価が繰り返され、いずれもNGとなります。

そして、最適解たる「ブランドB 4本マッチ 高ゲイン」に交換したときのサウンド評価は、もちろんOKとなります。一見すると、ゲイン毎の交換およびサウンド評価に手間がかかるようですが、上述した一般的手法に比して、極めて合理的かつ経済的に最短距離で理想サウンドに到達できることがおわかりいただけたと思います。

ギターアンプの場合のメリット3 →理想サウンドを維持することができる!

真空管は消耗品ですので、やがて交換時期が到来します。ここで問題となるのは、同一ブランドのプリ管に交換しても、交換前後でサウンドが変化してしまう点です。理由は、ブランドが同一であっても、交換前後でゲインが変わってしまうからです。

一方、ヴィンテージサウンドの場合、プリ管のマッチドをご購入いただくと、そのプリ管のゲインが数値でわかりますので、次回交換時に「ブランド」と「ゲイン」の両方を指定していただければ、交換前と同じ音色の理想サウンドを維持することができます。

ギターアンプの場合のメリット4 →都市伝説に翻弄されない音作りができる!

「ブランドAのプリ管は良く歪む」、「ブランドBのプリ管は歪みにくい」等の体験談がいわば都市伝説としてネットをにぎわせており、これらを参考にプリ管選びをされている方も多いことでしょう。

これらの都市伝説で欠けているファクターがあります。もうおわかりですね。 私が口を酸っぱくして言っている「ゲイン」です。

ブランドAのプリ管が歪んだ理由は、そのプリ管のゲインがたまたま高かったからです。もしも、ブランドAのプリ管のゲインが低かったら、逆に歪みにくくなります。

ですから、「ブランドAのプリ管は良く歪む」という体験談に対して、「俺は、ブランドAのプリ管を使ってみたが、歪まなかったぞ」という反対意見があるのも、ゲインの理屈がわかっていれば、納得できるハズです。

私からみると、両者は間違ったことを言っていませんが、「ゲイン」という言葉が足りず、表現が正確ではありません。

正確に表現するならば、つぎのようになります。

「ブランドAの高ゲインのプリ管は良く歪む」 「俺は、ブランドAの低ゲインのプリ管を使ってみたが、歪まなかったぞ」

こう表現し直してみると、ちょっと滑稽で、理論的に当たり前のことを言っているので、もはや都市伝説とは呼ぶことができません。

ゲインと歪みとの相関関係を知っていれば、いわゆる都市伝説に翻弄されない音作りをすることができます。

ギターアンプの場合のメリット5 →理論的に歪をコントロールすることができる!

ギターリストにとって、サウンドの歪み具合は非常に重要な意味を持ちます。暴れたような歪み、心地よい歪み、無機質な歪み、自然な歪み等です。

ギターアンプにおいて、歪みを発生させる原理は極めて簡単です。電子工学的には、増幅器の振幅制限機能を使っているだけです。簡単に言うと、増幅器は、信号を無制限に増幅することができる訳ではなく、増幅に限界があり、それを越えると、増幅できなくなります。増幅できない部分の波形の振幅に制限がかかり、波形歪みとなって出力されます。これを積極的に利用したのが、ギターアンプの歪みサウンドです。

また、振幅制限機能を発揮させるためには、ギターアンプに過大な信号を入力する方法と、ギターアンプ自体の増幅度を無理矢理高める方法とがあります。前者は、エフェクター等でギター信号を過大に増幅してから、それをギターアンプに入力する方法です。後者は、真空管をオーバードライブさせたり、高いゲインのプリ管を使ったりする方法です。一般的には、前者は、人工的な歪み傾向となり、後者は、自然な歪み傾向となります。

歪は、プリ管のゲインを可変することでコントロールすることができます。もう、ここまで読み進めてきた方には簡単ですね。プリ管の低ゲイン、中ゲイン、高ゲインのいずれかを意識的に指定することにより、いとも簡単に歪み具合を調整できるのです。

例えば、ブランドAの中ゲインのプリ管を使ってみて、音色は気に入っているのだが、歪みが足りない場合には、同ブランドAの高ゲインのプリ管に交換すれば、お気に入りの音色で気持ちの良い歪みサウンドを作り出すことができます。

このように、プリ管のゲインと歪みとは切っても切れない関係にあり、ゲインとうまくつき合うことで、理想サウンドを手に入れることができるのです。

プリ管のゲイン実測 おまけ編

ギターリストに人気が高いリブランド4社のプリ管のゲインについて実測したデータもお見せいたします。いずれも、ヴィンテージサウンドで仕入れ販売している現役のプリ管で、在庫品の中から無作為に6本づつ選択し、測定したものです。各ブランドのプリ管のゲインは、大小の差があれど、バラツキが見られます。

TAD 12AX7A-C RUBY 12AX7AC5 Groove Tube 12AX7C Fender 12AX7/7025

TAD 12AX7A-C

TAD
TAD ゲイン実測値

RUBY 12AX7AC5

RUBY
RUBY ゲイン実測値

Groove Tube 12AX7C

Groove Tube
Groove Tube ゲイン実測値

Fender 12AX7/7025

Fender
Fender ゲイン実測値

これらのゲイン実測値をご覧になってどのようにお感じになりましたか?

これらの事実も、まぎれもなく、真空管業界の常識です。

しかしながら、このようなゲインのバラツキは、真空管の構造上やむを得ず、回避することができません。断っておきますが、ゲインのバラツキ自体は、不良品ではありません。電気的には、所定以上のゲインがあるため、今回ご紹介したプリ管は全て合格品です。

これらのバラツキがある真空管は、電子工学科の学生が行う増幅回路の実験に「電子部品」として使う分には全く問題がありません。(注:いまどきの学生実験で真空管を使うとは思えませんが。)

しかしながら、左右スピーカーのバランスが重要視されるオーディオアンプや、楽器の一部として重要なギターアンプに、バラツキがある真空管を使うのは、サウンド向上という観点からお奨めいたしません。

「とりあえず音が出れば良い」、というのであれば話は別ですが、できるだけ良い音楽を聴きたい場合や、ましてや音楽ビジネスに使うのであれば、ゲイン特性が揃ったプリ管を使うことをお奨めいたします。

最後に、本テーマがプリ管への興味のきっかけとなれば幸いです。

ヴィンテージ管とは

真空管は、製造時期によって、現行管とヴィンテージ管とに分類されます。現行管は、現在進行形で製造されている真空管で、中国、ロシア、スロバキア等で製造されています。現行品の代表的なブランドは、中国の曙光電子、ロシアのSovtek、Scetlana、Electro Harmonics、TUNG-SOL(ヴィンテージ復刻品)、GOLD LION(同復刻品)、Mullard(同復刻品)、スロバキアのJJ等です。

真空管は、電子工学の花形の座を半導体に譲ってから40年以上経過しておりますので、電子産業からのニーズは皆無に等しい状況にあります。だだし、電子産業のパイからすれば、ごくごく僅かなニーズは、ギターアンプ、オーディオアンプ等の真空管アンプや、放送局の送信管等です。現行管のほとんどは、ギターアンプ向けに製造され、その一部がオーディオアンプに流れるという構図となっております。

従って、現行管のブランドおよび規格は、種類が少なく、限定的となっております。

一方、ヴィンテージ管は、製造中止となった真空管であって、およそ1910年から1980年にかけて製造された真空管を指します。ヴィンテージ管は、真空管の黎明期、発展期、全盛期、衰退期を通じて、多数の国のブランド、メーカーにより製造されており、種類は、現行管の比ではありません。ヴィンテージ管の規格を解説したデータブックは、分厚い辞典にも匹敵する情報量です。

ヴィンテージ管の製造国は、米国、英国、ドイツ、フランス、オランダ、ソ連、そして、わが国、日本、etcで、電子工学の先進国では国を挙げて製造されておりました。代表的なブランドを挙げてみましょう。

  • 米国→RCA、GE、SYLVANIA、RAYTHEON、etc.
  • 英国→Mullard、Brimer、GOLD LION(GEC)etc.
  • ドイツ→Telefunken、Siemens、Valvo、RFT
  • オランダ→Amperex、etc.
  • 日本→東芝、松下、日本電気、etc.

ヴィンテージ管といっても、銘球、駄球、珍球が玉石混合しております。ギター界およびオーディオ界においても、いくつかの銘球が誕生し、今に伝えられているものもあります。私が良く使う表現で、銘球に限って言えば、「現行管とヴィンテージ管とのサウンドは、インスタントコーヒーとレギュラーコーヒーくらいの差があります。」。

それほど、ヴィンテージ管のサウンドは、魅力的で、しかも伝説化している部分も多く、私のような真空管を業としている者にとっても、非常に興味深いカテゴリーです。今回は、ヴィンテージ管について、深く掘り下げてゆきます。

ヴィンテージパワー管の偽物に注意

今回は、弊社の仕入れで偽物のパワー管をつかまされそうになった話をします。

平成21年6月某日、心待ちにしていた海外からの荷物がFedexにより到着しました。私は、心を躍らせながら、大きなダンボールをカッターで開封し、梱包材をどけると、そこには、Siemens EL34 とトップに印刷されたオレンジ色の元箱がズラリと入っていました。

発注数は、200本。

思わず、「オー」と歓声を挙げたほどでした。Siemensは、ドイツのヴィンテージ管ブランドで、これほどまとまった本数を見るのは初めてで、「よくもこんなに見つかったものだ」と感心していました。

早速、1本の元箱を手にとると、デットストック品だが、いい感じに劣化した箱の手触りが伝わって、これは本物に間違い無いと確認しました。

そして、箱から真空管を取り出した瞬間、期待が落胆に変わりました。

「やられた。」

真空管は、真っ赤な偽物でした。真空管関連業者なら一目見てわかりますが、その真空管は、JJ EL34のバリバリの現行品で、スロバキアでせっせと製造されているものでした。正確には、JJ EL34にSiemens EL34と「クッキリ」印刷された偽物です。

「これは夢かもしれない」と思い、別の箱をつぎつぎと開けても、出てくるのは、JJ EL34をベースにした偽物ばかりです。

ここでめげてもしょうがありませんので、偽物検証のため本物のJJ EL34と、偽物のSiemens EL34とを並べて記念撮影をしてみたのが、つぎの画像です。

EL34偽物1

左がJJ EL34、右が偽物Siemens EL34とその元箱。外見も中身もうり二つです。ちなみに、元箱だけは本物です。

EL34偽物2

JJ EL34は、トップがドーム型となっているのが特徴で、本物のSiemens EL34は、平らです。ゲッターのリング形状、ヒータの感じ、内部構造物の全てがまるでコピーしたかのように同一です。唯一の相違点は、一方がJJのロゴ、他方がSiemensのロゴであるという点だけです。

EL34偽物3

別の角度からの画像を見ると、上部マイカの周縁部の切り込みも一緒です。

EL34偽物4

ドーム型頂部の特徴や形状一致でもはや偽物と疑う余地はありませんが、言い逃れできない決め手は、ピンのハンダ状態です。この画像を見ると、ピンの下半分がキレイな銀色になっているのがわかります。ハンダが新しく、酸化していない証拠です。百歩譲って、形状がたまたま一緒だったとしても、ヴィンテージ管の場合、製造から少なくとも30年前後は経過しておりますので、ハンダの表面が酸化し、いぶし銀のように必ずくすみます。偽物Siemensには、このくすみが一切ありません。本物のJJ EL34のハンダと目視で比較しましたが、ピッカピッカの新品状態でした。

という訳で、これらの証拠写真とともに海外の仕入れ先にクレームと返金を要求したところ、以外にも、即座に返金に応じてくれ、偽物Siemensたちは、着払いで強制送還されました。こちらが真空管業者だとわかり観念したのだと思います。実質的な被害額がゼロで済んだことは、不幸中の幸いでありましたが、真空管屋としては、良い経験をしたと思っています。こうして、皆様にワーストケースとしてご紹介できるのですから。

おそらく、本物の元箱だけが大量に発見されたことに目をつけ、悪徳業者が偽物Siemensを制作したのでしょう。

この種の偽物は、もっと大量に作られているハズですから、弊社以外に日本国内にも入っていると考えるのが自然です。

同様のケースが無いか、ネットで検索したところ、真空管アンプキットで著名なキット屋さんのブログでもSiemens EL34が紹介されていました。

キット屋さんのブログ

真偽のほどは不明ですが、画像で拝見する限りでは、ご紹介した偽物EL34と特徴が非常に似ているようにも思います。万が一、弊社でつかまされた偽物EL34と同じならば、水際でくい止められたことを祈るばかりです。

おそるべし、ヴィンテージ管の世界といったところでしょうか。

真空管と知的財産権

前回(真空管の偽物)は、かなりの問い合わせがあり、思っていた以上に被害が多いなという印象です。そもそも偽物を販売等する行為は、知的財産権を侵害する行為です。ここで、知的財産権とは、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権等を指します。

世界に目を向けてみると、主要各国のほとんどが知的財産権に関する法律を有しており、世界各国が批准する条約も複数存在しており、日本も条約を批准し、グローバルに知的財産権を保護するシステムが確立しております。

今回より、偽物つながりで、真空管という切り口で知的財産権について思っていることを綴ってゆきたいと思います。

日本国内で偽物RCA、偽物Siemensを販売したらどうなるか?

当然、罪に問われ、条件によっては、刑事罰が課せられます。

この手の問題は、海外の偽物ブランドバックの摘発に似ています。すなわち、商標権の侵害(商標法第37条)で、同法には、「指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用等は商標権を侵害するものとみなす。」と規定されております。

要は、他人様の商標(RCA, Siemens)を無断で使ったらダメよという規定です。商標法は、商品の出所の混同を防止し、その商標(RCA、Siemens)が持っている信用、ブランドイメージのフリーライド(タダ乗り)を禁止するため法律です。

つまり、ユーザは、「RCAは高品質で音が良い」、「RCAは真空管ブランドで最も信頼性が高い」、「とにかく、真空管ならRCA」という信用・ブランドイメージがあるからこそ、RCAの真空管を購入する訳で、Siemensに関しても同様です。

ここで、ユーゴスラビア製の12AX7にRCAの商標を付して販売された場合であっても、同ユーザは、この偽物RCAを本物のRCAと信じて購入してしまい、販売者は、まんまと、RCAブランドにタダ乗りして、利益を出すことができます。

こんなことはもちろん許されません。

通常、「RCA」や「Siemens」の商標権を有する商標権者は、商標権侵害の事実を知ると、販売店等に対して、販売差し止めを要求する警告状を送付します。ほとんどは、この段階で、おとなしく販売を中止するのですが、それでもやめない悪質なケースでは、刑事告訴という段階に入り、逮捕、刑事罰という流れになります。なお、商標権侵害は、親告罪なので、商標権者からの告訴が無いかぎり、当局が動くことはありません。

しかしながら、ヴィンテージ管の偽物の場合には、商標権侵害というケースはほぼ0%でしょう。つまり、商標権者がいないということです。商標権は、その商標が実際に使用されていることが要件の一つとされており、商標登録だけして使用しないというのは許されず、商標権不使用を理由に第三者からの申し出で商標権を取り消される場合もあります。

1980年代から今現在に至るまで、日本国内でRCA等の現行新品管は販売されておりませんので、理論上は、真空管を指定商品とするRCA等の商標は存在しないことになりますので、商標権者もいないことになります。

従って、現在、日本国内で偽物RCA等を販売したとしても上述した商標権侵害でお縄にすることはまず不可能です。

現実的には、詐欺罪(刑法246条)か、不法行為に基づく損害賠償請求(民法701条)でしょうか。

偽物とわかって販売した場合には、詐欺罪に問うことができるでしょうし、偽物と知らないで販売した場合であっても、被害者が偽物であることを立証できれば過失による損害賠償請求の対象になります。真空管1本でそこまでやるかという別の議論もありますが、理論上は可能であると思います。