歪み不足の主な原因は、プリ管のゲイン不足です。ここで、プリ管のゲインとはいったい何のことでしょうか。一言でいうと電圧増幅度のことなのですが、数式やら公式等の硬い話はおいといて、イメージでご説明いたします。
ギターの弦を弾くとその振動がピックアップコイルで電気信号(ギター音に対応して変化する波形を思い浮かべてください)に変換されます。この電気信号は、まるで虫の息のように超微弱でスピーカーなんてとても鳴らす元気はありません。
そこで登場するのがプリ管です。電気信号は、プリ管に入力されると、虫の息から蚊の鳴く音くらいに増幅されます。どれくらいの大きさに増幅するかを数値化したものがゲインで、真空管毎に個体差があります。おなじ12AX7でも、ゲインが高いものや低いものが存在します。なお、プリ管の出力(蚊の鳴く音)では、スピーカーを鳴らすことは到底無理です。
また、ゲインが高い場合、電気信号を大きくすることができるが、電気信号自体の波形は崩れやすくなるという特性を有しています。この崩れ具合が歪みの正体です。まるで、おいしいものをたくさん食べると、確かに体重は増加するが、体型が崩れるのに似ています。
一方、ゲインが低い場合、電気信号を大きくすることはできないが、電気信号自体の波形をきれいに保った状態で増幅されます。つまり、歪みにくい(クリーンなサウンド)ということです。この場合の体型での例え話はもうおわかりですね。
話を戻して、歪みサウンドを実現するためには、「高ゲインのプリ管」に交換することです。ここで注意すべきポイントは、上述したように、真空管は個体差が激しいため、高ゲインとして選別された真空管を入手することです。高ゲインかどうかは、専用の測定器で測定しなければならないため、外見からは絶対にわかりません。
ちなみに、12AX7とECC83は、呼び方が違うだけで、同じ規格のものです。12AX7は米国系規格の呼称で、ECC83は欧州系の呼称でどちらで呼んでもかまいません。
よく、「12AX7/ECC83」と真空管に併記プリントされているのはこのためです。
つぎに、パワー管6V6GTですが、さらに歪ませたければ、低パワーを選択しますが、パワー感が低くなってしまいます。歪みサウンドに輪郭を持たせ、パワー感あふれるサウンドにしたければ、高パワーを選択します。
余談ですが、パワー管6V6GTは、プリ管の「蚊の鳴く音」を「スズメバチが飛ぶ音」までに増幅し、スピーカーを駆動する役目をしています。 Q.ギタ−アンプの中古品を購入したのですが、スピ−カ−から音がでている最中に突然、小さくなったり スイッチを入れた時にぼそぼそという感じの割りと大きいノイズが出ます。このノイズは不定期に発生します。真空管の全交換を考えています。自分で交換したいのですが、初心者ですので手順、工具などを教えてください。 A.ご報告の状況からは、真空管の劣化が原因である可能性が非常に高いと思われれます。
ここで、真空管の劣化に伴う現象としては、ノイズ発生(ガザガザ音やブーンというハム音等)と、音量低下(変動も含む)とが挙げられます。これらの現象が発生した場合には、真空管の寿命であり、交換時期です。
特に、中古アンプの場合には、真空管もかなり劣化していたり、つぎはぎ的かつ無計画に新旧真空管の混在や、異ブランドの無秩序な混在が多く見られます。このような状態では、とりあえず音が鳴っている状態で、設計当初のパフォーマンスとは程遠いサウンドとなります。
今後のサウンド作りを考慮すれば、全数を新品に交換し、基準となるサウンドを一旦確立させることが重要となってきます。基準が決まってしまえば、つぎに真空管を交換した際に、その差が明確となり、サウンド改善の方向性を容易に見つけられます。
基準無しに、むやみやたらに真空管を交換するのに比べて、経済的かつ効率的に理想のサウンドに近づくことができます。
つぎに、真空管の交換時の注意点と手順についてご説明いたします。
脅かす訳ではありませんが、真空管交換には、感電の危険性ととなり合わせであることを肝に銘じてください。 アンプの各部には、数百ボルトの電圧が印加されており、電圧露出部分に直接さわると感電します。
「ビリッときた」程度の笑い話ではすまなく、時には、死に至るケースもありますので、十分に注意してください。
<注意点> (1)アンプの電源スイッチをオフにし、さらに電源プラグをコンセントから抜いた状態で交換作業をすること(感電防止)。電源プラグをコンセントから抜いた状態であっても、アンプ内のコンデンサに電荷がチャージされているため、各部に高電圧が印加されており、依然として、感電の危険性があります。
(2)交換作業中は、必ず片手(絶縁ゴム手袋装着)で作業し、両手で作業をしないこと(感電防止)。両手で作業した場合、感電すると、アンプ→右手→右腕→心臓→左腕→左手→アンプという閉回路が形成されることにより心臓に電流が流れ、最悪感電死に至ります。
(3)真空管が十分に冷めてから交換すること(火傷防止)。熱膨張の関係より、冷めてからのほうが真空管をソケットから外しやく、作業が楽。
<交換手順> (1)アンプの電源スイッチをオフにする。
(2)電源プラグをコンセントから抜く。
(3)真空管が熱い場合、十分に冷えるまで待機。
(4)アンプの裏蓋のネジ等をドライバーで外して、旧真空管(プリ管(親指くらいのサイズ)やパワー管(プリ管よりも大きいサイズが一般的)の実装位置を確認する。ソケットの位置と真空管の規格(12AX7等)を対応づけて、紙に記入しておく。真空管がシールド筒に入っている場合には、シールド筒を外しておく。
(5)1本の旧真空管を抜く。真空管は、円周上に配設された複数のピンが、アンプ本体に固定されたソケットに挿入された状態で実装されています。 真空管の根本部分を持時した状態で軸方向(垂直方向)に抜くようにして外します。外しにくい場合には、わずかに揺らしながら少しづつ抜いてください。 ここで、パワー管の場合には、根本部分のハカマとガラス部に分かれていますが、必ずハカマ部分を把持してください。ガラス部分を把持すると、ハカマとガラス部との接着が外れルーズとなります。 また、抜ききったときに、力が余って、真空管の頭をアンプ内部にぶつけて破損させる場合がありますので、力加減に十分配慮してください。 旧真空管を抜く順番はどれでも構いませんが、理想的には、信号の流れに沿って、プリ管、パワー管の順番で抜くのが良いと思います。 また、旧真空管には、実装位置がわかるように、外した順番で連番(1、2、3、4等)を付与し、マジック等で真空管に記入しておくことをお奨めいたします。何らかのトラブルが発生した際に、元の状態に速やかに戻すためです。
(6)抜いた1本の真空管の規格(12AX7等)を確認し、この規格と同一規格の新真空管を用意する。つぎに、旧真空管を抜くのとは逆の要領で、当該新真空管を空ソケット((5)で旧真空管が抜かれたソケット)に実装します。なお、真空管とソケットとは、ピン配置が工夫がされているため、円周方向の位置を間違うことなく、実装できるようになっています。ソケットには、完全に挿入してください。挿入状態が甘いと、真空管が脱落しますので注意してください。
(7)残りの旧真空管について、(5)と(6)とを繰り返す。ここで、(5)と(6)とを1本づつ作業する理由は、複数規格(12AX7、12AT7等)のプリ管が混在した状態で実装されている場合に、規格を間違わないためです。
(8)真空管の交換が終了したら、(4)で紙に記入したものと、新真空管の実装位置・規格とを照合し、間違いが無いことを、指差呼称しながら確認してください。目視確認はヒューマンエラーの原因となるので、声を出しながら何度も確認してください。
(9)間違いが無いことを確認したら、電源プラグをコンセントに挿入した後、電源をオンにし、音だしテストを実行してください。
(10)問題無ければ、電源をオフにし、電源プラグをコンセントから外した後、裏蓋を元通りにして、交換作業は、無事終了です。
<免責事項> 真空管交換は、万全の注意の上、お客様の自己責任にて行っていただけますようお願い申し上げます。なお、弊社は、真空管交換作業に伴う事故、火災、傷害の一切の事項に関して責任を負いかねますので予めご了承ください。